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異界とは:顛末

 ベーグルは、「これが真実だ」と前置きして語り出した。


「ウィッチことアンナは、某国の異端研究者だった。元々資源に乏しく、めぼしい産業も無いその国は、IT産業の発展に望みを託していた。アンナも国の支援を受けて高度な教育を受け、様々な功績を残した」

 オレ達は駅に向かって歩きながら話た。


「一方で、それで得た地位と私財を投じて独自の研究を進めており、その内容が異端と言われた所以だ」

「それが異界?」

「そう。この宇宙は情報数理系に近しい所があることに着目したアンナは、様々なレイヤーで宇宙を観測すれば、新たな発見があるのではないかと考えた。その研究の一環で発見したのが、この異界だ」

 ベーグルは周りを示すように、一度ぐるりとオレの周りを飛んだ。


「情報と物質の境目が曖昧なこの異界の特徴から、アンナは大胆な試みをする」

「……」 

「異界の特定の物質に、独自の情報を埋め込むことで、擬似生物を作り出した。それがネイムだ」

 やはり、ネイムは作られた存在というオレの予想は当たっていた。


「ネイムを生み出したことで、アンナは異界に可能性を見出す。ネイムは資源や、エネルギーとして活用できないかという研究に没頭した」

 なんでこれが資源やエネルギーに?と思ったが、ネコ型ネイムが家具や扉になったことを思い出し、なんとなく脳内補完をして、ひとまず話の腰を折らずに聞くことにした。


「しかし、いくつか成果が出始めた頃、大きな誤算が生じた。クーデターにより、軍事独裁政権が発足したんだ」

「その独裁者がプレジデントの原型?」

「ああ、姿形はまんまだった」

 ベーグルは質問に軽く答えてから、話を続けた。


「当然のごとくアンナの研究も没収された。そして、生物兵器としての研究がすすめられた。何しろ、ウイルスや細菌兵器と違い足が付かない。そしてワクチンを作ることも出来ない」

「実現したら、とてつもない兵器になるな」

「そう。実際、研究は急ピッチで進み、ネイムは兵器として改造され、各国の異界にネイムがバラまかれた。オレ達が対処しているのは、その残党だよ」

 ベーグルは、これまでのことを『対処』と言った。それで、なんとなく話が見えてきた。


「だが、計画はすんでの所で実行されなかった」

「何か欠陥が見つかった?」

「いや、独裁者が倒れた。正確には自ら銃で頭を打ち抜いた。少し前から言動が怪しくなり、功臣に嫌疑をかけ粛清まがいの逮捕、処罰を行うようになっていたので、精神を病んだということで処理された」

「それって……」

「そう。ある者が気づいてしまったんだ。異界とネイムは生物兵器以前に、政敵を粛清するのに便利だと。もちろん、計画に携わった者は裏で何が起きたか察しがつく。しかし、立証手段と法律が追い付かない。するとどうなると思う?」

「……ヤバイことしか思いつかない」

「そうだ。各々が身を守るために粛清合戦が始まった。瞬く間に、国家はその機能を失った。この新しい兵器を誰も使いこなせなかったんだ。そして、暴徒と化した民間人によりあっけなく終焉を迎える」

 先ほどまで戦っていたプレジデントは、おそらく、この時の副産物。小川ネイムのようなものだろう。


「アンナはどうなった?」

 オレは一番気になる所を聞いた。既に『故人』と聞いているので、良い結末ではないことは予想できるが、聞かずにはいられない。


「処刑された。『悪魔の兵器を生み出した魔女』として。ただ……」

「ただ?」

「様々な都市伝説を残した。アンナは自分の処刑を予想していた節がある。逮捕された時は綺麗に身辺が整理され、研究内容も跡形も無く処分されていた。だから、一連の粛清合戦からの動きは、ケジメとしてアンナが仕掛けたんじゃないかと噂もされた」

「真相は?」

「分からない。その時、私はもう国を離れ、異界でひたすら旅していたから」

 心なしか、ベーグルの言葉には悔恨の情が伺えた。


「お前のことだから、薄々気づいてはいると思うが、私の真の目的は戦後処理だ。各国の異界に散らばったネイムを無害にすること。見ての通り、軍部が改造したヤツラは独自の進化を遂げるようになった。その危険性に気づいたアンナは密かに私の開発に取り組んだんだ。だから私の機能の全貌はプレジデント達は知らないし、ヤツらにとって私は脅威なんだ」

「無害化はどうやるんだ?」

「正直まだ決め手は無い」

 ベーグルがそう言い切る。「なんだよそれ!」と思わず突っ込んだ。ベーグルは「事実だからしょうがない」と開き直り、話を続けた。


「だから、アンナの研究の後継者を捜すのが最初のミッションだった。とっかかりとしてアンナの留学時代の学友の元に向かうよう指示された。しかし、そこが予想以上に遠かった。辿り着いた頃にはエネルギーを使い果たし、かろうじて現世に実体化することしか出来なかった」

「優秀な研究者のわりには随分杜撰な計画だな」

「余裕が無かったんだろう。ただ、アンナは『辿り着きさえすればなんとかなる』と言っていた。実際そうなったしな」


「あっ!」

 その話を聞いてオレは気づいた。

「そうか!最初に行ってた古代人云々って話、なんか既視感があったんだ。そうか!アイツの冗談からパクったんだな」

 

 後日確認した所、やはり、アンナの学友とはあの秋葉原のジャンク屋のマスターだった。 


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