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異界とは:情報開示

 網に絡まれ、プレジデントは剣を落とす。

 オレはそこに体当たりをかまし、壁際に追い詰めた。


「ベーグルキック!!」

 そう叫び、プレジデントを壁に串刺しする様にサイドキックを放つ。

 その発声で背中の腕が一本引っ込み、蹴り足が一回り太くなる。ベーグルが指示通り足に移動してきたのだ。


 プレジデントは観念したように動かない。

 間もなく、覆っている網ごと完全に吸収された。


 ……が、すぐにヤツが観念した理由を思い知る。

 落とした剣が黒猫に変わり、無くなった扉の所から逃げて行った。


「追うか?!」

 とオレ。

「いや、無理だろう。成果としては十分だ。深追いは止めておこう」

 とベーグル。存外執着がない。


 もう逃げた黒猫は影も形もいなくなった。

 家具も扉も無くなり、ガランとした部屋にオレ達だけがいる。


「どの道、これで終わりじゃないってことだよな?」

 オレは言った。

 そして、何も描かれていない額縁を見る。


 黒猫が額に触れてプレジデントに変わったように、おそらくプレジデントとは1固体じゃない。

 彼の情報(マナ)はまだあちこちに点在しているのだろう。


「そういうことだ」

 ベーグルはオレの考えを読み取って同意した。


「ならば……」

 オレは言った。

「そろそろ本当のことを話してもいいんじゃないか?古代人とやらの、とんでもエピソードではなく」

 プレジデントとの問題にケリがついたら、話そうと思っていたことだ。


「そうだな」

 ベーグルはあっさりと応じ、当初の説明が創作だったことを暗に認めた。


「今回の一連の行動で、情報開示の条件は満たした」

 とベーグルは言う。


「条件?」

「そう、私は機械であり人工知能だ。情報開示には製作者のセキュリティがかかっている。詳細条件は複雑なので説明は端折るが、ざっくり言うと、信頼できる人財かどうかの信頼ポイントの蓄積が開示条件になっている」

「信頼ねぇ……ここまでしないとオレは信用できなかったってか?」

 と憎まれ口を吐きつつも、実際オレもベーグルは完全には信用していなかったので、内心はお互い様だとは思っている。


「そう言うな。なにしろ製作者がもう故人だから、設定された条件は私では変更できないんだ」

「その製作者がヤツらの言うウィッチ?」

「そう。アンナという学者だ」


「アンナか……やはり、こっちの人間じゃねーか」

 オレは鼻息を吐く。

「やはりとは?」

 ベーグルが細部に食いつく。なんかコイツは少し人間臭くなった気がする。


「お前らの嘘は、現代(こっち)のAI臭いんだよ。その場を取り繕う語彙は豊富だが、視野が狭い。世界観が出来ているわけじゃないから、その時々で言ってることのニュアンスが変わる。例えば、プレジデントが語った歴史は、おそらく、ネイムが食った人間の記憶を色々混ぜて作ったんだろ」

「鋭いな。その通りだが、どこで気づいた?」

「そうだな……色々あるが……」

 考えをまとめようを首を傾げると、そういえばまだ地下にいることに気が付いた。

 そこで、帰りながら話そうとベーグルに提案する。


「確信を持ったのは、オレが『立った方が考えがまとまる』と言った時だ。ヤツは『分かる。合理的だ』と言った。分かるわけないだろ。歩いた方が考えがまとまるのは、脳に血流が行くからだ。体の構造がまるで違うネイムが分かるわけない。そんで、適当に話を合わせる会話型AI臭いなって思ったんだ」

「はははっ、確かにな」

 ベーグルは腕型の形態を解き、いつもの蜂の形態になっていた。この方が消耗が少ないんだとか。

 ついでにオレも変身を解いてもらった。


「ただ、その前の建国神話から違和感はあった。こっちの(レイヤー)でどこかで聞いたような話だったからな。それに時代が急に飛ぶ。やはりツギハギ。連続性が希薄なんだ。それで、適当な慣用表現を使っている部分の細部を突っ込んで話を広げて見た」

「『卑怯で卑劣』という所か?」

「そう。あれは、かなり違和感がある。進化した場面そのものこそ見てはいないが、小川ネイムにしろ、大樹ネイムに、それを狩るネイム、情報(マナ)を食って様々な形態に変わっている様を見ている。原始ネイムは『何の能力も無い土くれ』じゃないだろ」

「うむ……」


「なんでそんなバレる嘘を?と思うが、ヤツラはオレ達がどんな経験をしてきたかなんて背景は、その場で言わなきゃ思考に加えない。そういうAI的な創作だと考えれば納得がいく。ただ……」

 オレは一旦言葉を区切る。


 ここからは、自分もまだ考えがまとまっているわけではない。

 余計なことを言えば、それにベーグルが話を合わせてしまう懸念もある。

 だが、ずっとこういう気を張っており、少々疲れたのでベーグルの『情報開示の条件は満たした』という言葉を信じ、思うまま話してしまうことにした。


「敵国だとか、異界から協力とか、その敵国は滅ぼしたとかは、バレる嘘にしても程がある。この世界に戦火の痕跡はまるでないからな」

「……」


「だから逆に、ここは真実が含まれるんじゃないかと思った。現代の地球の情勢不安定な国が、異界を利用した兵器を開発した……とかね」

 

 通路の端についた。幸い階段は残っている。

 まぁ、無きゃ無いで作ればいいのだが、手間が省けるにこしたことはない。

 念の為、階段が崩れることを警戒しつつ、オレは足早に登り切った。


 頭上の蓋は、どういう仕掛けなのかオレの力では開かなかった。しかし、そこはベーグルが蓋そのものを吸収してしまうことで、難なく脱出が出来た。 


 脱出の目処が立った所でオレは、一度大きく背伸びをしてから話を続けた。


「そう。そして、これはオレの勘だが、その元凶となった国はもう、存在していない可能性もある」 

 ここで言葉を切って、ベーグルの反応を待つ。


「たいしたもんだな」

 ベーグルは言った。

「ご名答だ」

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― 新着の感想 ―
うぅっ、キックが決まったのに逃げられるとは、サボテグロンのような奴…… なんて趣味丸出しで喜んでおりますが、前回、書かせて頂いた感想の御返事を読み、元ネタ暴露に大興奮しておりました。 東映スパイダーマ…
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