いつもの相手と深夜のハンバーガー
その後、七海の体調は回復し、双葉の毒舌もあれっきりとなった。やはりあれはネイムの影響だったんじゃないかと思っている。
そして今の所、オレの前に黒猫は現れていない。
避けられているのか、虎視眈々と再興を狙っているのかは分からない。
まぁ、何かあったら、その時はその時だ。
ただ、初めて黒猫が現れたハンバーガー屋の同じ席に座ると、どうしても警戒をしてしまう。
「眠いですか?」
目の前の七海が話しかけてきた。
「いや、なんで?」
「ぼーっとしてたから」
「ああ、なんかミスしてる気がしてさ、頭にソースコードがチラついてた。納品後はいつもこうなんだ」
咄嗟に誤魔化した。
「分かる!私もそうです!」
思いのほか七海が話に乗って来た。
どういう訳か、この所、七海と残業することが増えた。そして帰りにこのハンバーガー屋によることが定番化している。
「アイツら付き合ってるんじゃないの?」と陰で言われていることは、なんとなく知っている。
七海もそれは知っているはずだ。それについてはどう思っているんだろう?「加藤さんの影響で少し仕事が面白くなってきた」とは言ってくれている。それ以上の感情はどうだろう?
そして、オレは、それ以上の感情を持っていいのだろうか?
(そのなことを悩むこと自体、それ以上の感情持ってるんだろ!)
脳内でベーグルの声が聞こえてくる。
プレジデントの一戦でかなり情報が溜まったらしく、一日一時間程度ならこっちでも念話が出来るようになったのだ。
「なんか、仕事忘れて遊びたいな」
と七海に言いつつ、裏でベーグルに対して(うっせぇ!茶々入れんな)と釘を刺す。
こういうデートに誘う見え見えの口実の話をしている時、内心を他人に聞かれているのは、なんともムズムズする。
今日はこいつを家に置いてくるんだったと後悔した。
「ですよね!私もです!」
七海は乗って来た。
「明日どこか行かない?仕事が忘れられるならどこでもいい。休日に一人で家にいると、なんかずっと仕事のこと考えそうなんだ」
勇気を出して誘ってみる。
そして、裏でベーグルに釘を刺す。
(大事な所なんだ!絶対邪魔すんなよ!邪魔したら、もう手伝わんからな!)
ベーグルは言った。
(世界平和がかかっているデートか。プレジデントとの会談以上に重要な場面なんだな、今は)
(そういうことだ!)
オレ達は固唾を飲んで七海の返事を待った。
ー異界のベーグル 完ー
お読みいただき、ありがとうございます。
この先の話も、いくつか案はあるのですが、おそらく書くとしてもだいぶ先になるので、ここで一旦完結にしたいと思います。
■後記
本作、最初はSFの冒険譚を書こうという所から始まり、ちょっと手塚治虫の「どろろ」テイストが入り、後半は「今時の会社員の異世界での活躍のし方」というテーマが出来てきました。
おおよそのプロットは最初から出来てはいたのですが、ストーリーとしてのプロットと、作品としてのテーマは別物なんだなと、今更ながら気づいた作品です。
そういう意味では、少し寝かせてから読み直し、テーマの統一感の微調整の改稿をしていこうかなと思っています。




