異界とは:情報化社会
「最初から、そのつもりだったのか?」
プレジデントが、ゆっくり立ち上がる。抑揚の無い声だが、十分怒気は察することが出来る。
「自爆テロに等しい行為だ。ウィッチに唆されているのが分からないのか?愚かな」
「違うな!」
オレはヤツの言葉を遮った。
「令和の会社員ってのはさ、入ってくる情報は全部、話半分で受け取るんだ。上司の言うことだって信用なんかしていない」
「?!」
「アンタはもちろん……ウィッチだって最初から疑ってた」
「じゃあ、何故来た?!」
「面談だよ。一方の意見ではなく、双方と話して判断を下す。仕事の基本だろ」
「では、私よりウィッチ側につく理由はなんだね」
「そんな有益な情報を競合他社に話すわけないだろ」
「残念だ。交渉の余地は無いということだな」
プレジデントは自身の座っていた椅子に触れる。
すると、それがサーベルに変形した。
そして、テーブルが猫達に戻る。
先程とは少々様相が違う、牙と爪が異様に長い、敵意剥き出しの猫型ネイム。そいつらが、こちらを威嚇しながら囲んで来た。
「ああ。御社とはご縁が無かったということだ!」
言葉の裏で意志を伝えると、オレの両腕に鋲付きの手甲が装着され、背部には尻尾が生えた。
と、同時に一匹の猫が飛びかかってくる。
オレはカウンターのアッパーで迎撃。
直撃するも、猫は空中で体を翻して着地する。たいしたダメージにはなっていないようだ。
「そっちか猫なら、熊で行くか」
そう呟くと、手甲の鋲が伸び、尖い鉤爪に変わる。
この念話の仕組みがキーになる。
だから、黒猫と初めて話した日から、手の内を晒さないように工夫を凝らした。
あの夜、PCを開き、ベーグルのメッセージを読み、「なるほどね……」と独り言のように呟いた。
その内心で「盗聴されているかもしれない」と伝える。
そして、更に独り言の体で、異界でも念話ではなく発声するよう、口裏を合わせた。
意思疎通はもっぱらPCを通じた文字。これも盗撮されている恐れがあるので暗号化も考えたが、時間的に工数が足りない。
だから、逆に情報を増やすことにした。
ベーグルからの応答は、ニュースサイトに表示される大量の広告に紛れるようなビューアを突貫で作った。
これらの対策が、どの程度有効だったかは、分からない。
ただ、プレジデントと会話をした限りでは、コイツらは「ウィッチ」という敵は認識していても、ベーグルの実体のことは、あまり分かっていないようだった。
だから、これを利用して撹乱する!
二匹同時に襲いかかる猫達を、一匹はアッパー、一匹はサイドステップからの打ち下ろしストレートのフォームで切り裂いた。
続けて襲いかかる3匹を迎撃している間に、先の2匹の猫型ネイムが姿を消した。
尻尾の形に擬態したベーグルが吸収したのだ。




