異界とは:歴史と既視感
「わが民族の歴史は迫害の歴史である」
プレジデントが言った。
「我々は、あまりに豊かで、賢明で、健全だった。それ故、常に周りから疎まれ、迫害された。先祖伝来の土地を何度も追われ、その度に耐え忍び、たどり着いた地で何度も繁栄を繰り返してきた」
何やら建国神話の様相だ。
「長い流浪が試練となり、血となり肉となり、経験はノウハウとなり、やがて、どの民族にも負けない力を得た」
民族?
目の前のプレジデントが中年男の風貌なので、一瞬聞き流しそうになったが、コイツらにも民族はあるのか?
オレはスライム状のネイムを思い浮かべた。
プレジデントの言う「民族」達は、いったいどんな形状だったのだろう?
そして、ベーグルの念話と違い、随分流暢な日本語を喋る。所々違和感こそあるが、民族だ流浪だ試練だと語彙も豊富だ。
これらは、どこで学んだのだろう?「血となり肉となり」等の慣用表現まで使いこなしている。
プレジデントは続ける。
「しかし、ある国の王が卑怯、かつ卑劣な作戦に打って出た。もうこの世界の兵力を集めても我々を下せないと見ると、異界と交信し、異界の兵器を借り受けて侵略を企んだ」
作戦に兵力に兵器か。先程までの、建国神話のような話から随分近代的に飛んだ。なかなか着いていくのに難儀する。
リアルならメモでも取りながら聞きたい所だが、ここではそうもいかない。
「その異界からの侵略者が『ウィッチ』だと?」
放っておけばプレジデントはずっと喋りそうなので、自分の思考を整理するためにも質問で会話を区切ることにする。
「そうだ」
プレジデントは端的に答える。
「卑怯は分かるが、卑劣とは?」
「貴殿も見ているだろう」
プレジデントは何を今更という顔をする。
「かの者の兵器は我々を退化させる。賢明で、健全で、万能な力を持つ我々を、ただの土くれに変える」
「?!」
土くれとは、スライム状のネイムのことだろう。
あれを作ったのがベーグル??
「その『土くれ』と貴方達は違うのか?」
「そうだ」
やはりプレジデントは即答する。
この話を聞いて、オレは何やら既視感を覚えた。
いや、これだけではない。既視感は他にもある。
「どうした?」
とプレジデント。
「ちょっと待ってくれ。情報量が多くて追いつかない。少し考えを整理させてくれ」
「いいだろう。無理もない」
オレは席を立った。
「どうした?」
「こうした方が頭が働くんだ」
これは実際、仕事が煮詰まった時のいつものクセだ。
「ああ、分かる。合理的で筋が通ている。好きにしたまえ」
とプレジデント。
「?!」
このプレジデントの言葉で、オレは既視感の正体に気が付いた。




