異界とは:招待
約束の土曜日。
某駅に降り、外のベンチに座っていると、正午きっかりに軽い目眩が起きた。
「今回は優しいんだな」
オレは目の前にいた黒猫に声をかけた。いつものような頭が締め付けられるような不快感が無く異界に侵入したからだ。
「今回は時間の密度を変えてないからな」
黒猫は自慢げにそう言うと、付いてくるように示して歩き出した。
建物も道も、モノクロームでのっぺりした世界。
黒猫の後について歩く。
見知らぬ殺風景な道を歩いていると、距離感覚が麻痺してきた。
不安になって一度振り返る。
幸い、降りた駅は視認出来た。そして、思ったほど遠くへは来ていないことに気付き、小心な自分に苦笑する。
「どうした?」
一瞬立ち止まっただけなのだが、黒猫は敏感に反応した。
「ああ。帰り道が気になってね」
「変なことを気にするんだな。来た道を戻ればいいだけじゃないか」
本当に理解出来ないという口調で黒猫は言う。コイツらとの機能の違いを感じると共に、コイツは帰りを送る気なんて更々無いことが分かった。
覚悟していたことではあるが、これから先が自分の常識外であることを改めて認識し、後頭部のあたりがキュッと締め付けられるような感覚を受けた。
「オレは道を覚えるのが苦手なんだ。遅れはしないから構わないでくれ」
不安を悟られないよう、それだけ言うと、黒猫は「好きにしろ」と呟き進んで行った。
道中黒猫は喋らない。これが何を意味するのかは分からないが、考えた所で答えが出るわけもなく、徒に不安材料が増えるだけた。
そう悟るとオレは、なるべく何も考えないように、ただ自分の歩数だけを数えて進んだ。
「ここだ」
720歩を数えたあたりで黒猫が立ち止まった。そこはマンホールの上だった。
いや、そもそもマンホールなんて他にあっただろうか?
そう思って周りを見ても、似たような所は他にない。
改めてよく見ると、これもマンホールではないのかもしれない。地面に円形の蓋のような物があり、その蓋に細い細工彫りがしてある。
この異界での建物、備品はかなり情報が落ちていて、のっぺりしているのが普通なので、細工があること自体が珍しい。
もしかすると、この蓋は異界で作られたものなのかもしれない。
「どいてくれないか?」
黒猫が言った。オレがマンホールの端を踏んでいたのが邪魔なようだ。
「悪い。これを開ければいいのか?」
一歩下がり、マンホールを指してオレは言った。
「貴殿には無理だ。下がっていたまえ」
と黒猫が、いつもの尊大な口調で言う。
いや、猫がどうやってマンホールの蓋を開けるんだ?という疑問を抱いたのも束の間。黒猫は人型に変形?した。
身長180cm程度。全身黒タイツのような様相で、顔だけ猫のまま。
なんかプロレスラーみたいだなと思っていると、実際力強く片手で軽々と蓋を開けた。
このマンホールの蓋のようなものは、異界で作られたのではないか?という、先の予想は多分合っている。
なぜなら蓋の下には、普通、マンホール下にはあるはずのない螺旋階段が続いていたからだ。




