疑念:一応の顛末
オレは目を閉じて眩暈が収まるのを待った。
世界が落ち着いたのを感じて目を開けると、やはり灰色の世界になっていた。そして、空き缶用のごみ箱の上に黒猫が座っていた。
「またお前か。呼ぶのはいいが、もう少し丁寧にできないのか?頭がガンガンする」
「時間の濃度を変えているからな。多少の無理は生じる。これも配慮だ。向こうで不審者に見られたくないだろ?」
「そりゃどうも」
七海の時も、元の層に戻った時、あまり時間が経っていなかった。それのことを言っているのだろう。
「まずはよくやった。ウィッチの甘言を断り、我々の同胞を守ったようだね」
黒猫は拍手をする仕草をする。むろん音は鳴らない。
おそらく2体の巨人ネイムに、とどめを刺さなかったことを言っているのだろう。
「あの時の貴殿の判断は全く正しい。彼らを殺戮する理由なんてないのだ。善良な、ただ平和に座っているだけの同胞を殺せと命ずるウイッチこそが侵略者なのだ」
黒猫は芝居がかった抑揚で言った。
「のぞき見していたのか?趣味悪いな」
オレは黒猫の言葉を肯定も否定もせず、ただ毒づいた。
「否、全ての情報はプレジデントに集まる。我々は何でも知っているんだよ」
「どうだか、で、要件は何だ?」
「ああ。このように時間圧縮では落ち着いて話せない。先に伝えたようにプレジデントにお目通りいただく約束を取り付けた。次の土曜の正午、貴殿がイズミと交戦した駅に来たまえ」
「土曜だの、正午だのって概念や言葉を知ってるのか」
「ああ。我々は、平和的な共存を望んでいる。だから。そちらに迷惑がかからないよう、万全の下調べをしているのだ」
「ご立派なことで」
「お褒めの言葉、感謝する」
黒猫は上機嫌だ。どうも皮肉という概念はまだ学習していないようだ。
「ともかくだ。プレジデントとの会談で貴殿は全てを知るだろう。貴殿が望めば我々の陣営に迎えることも出来るし、望まぬのなら普通のニンゲンに戻ることも出来る。むろん、ウイッチと手が切れるよう図らって差し上げる所存だ。貴殿の為にもヤツとはもう関わらない方が良い」
「どういうことだ?」
「今はまだ、ウイッチに唆された被害者だということで我々も理解を示しているが限度はある。このまま同胞を傷つけ続けたらプレジデントですら、報復から庇うことが出来なくなるだろう」
「……ご忠告どうも」
黒猫は、礼には及ばないとばかりの尊大な態度を示した。
「そうそう、双葉が今日、少し攻撃的なのは、お前の影響か?」
得意げに胸を張っている黒猫にオレは声をかける。
「フタバ?ああ、中継にしたニンゲンか。それは言いがかりだ。人間ジョセイ特有のムラッ気だろう」
黒猫は急に面倒そうな態度に替わる。そしてゴミ箱から飛び降り、食堂の出口の方へ去っていった。
そして眩暈が。
「どうしました?大丈夫ですか?」
後ろから双葉の声がする。
「大丈夫。ただの立ち眩みだよ」
「やっぱり疲れてるんですよ。案件に区切りがついたのなら、早退したらどうですか?」
「そうだな」
オレは双葉の提案を受け、その日は早退することにした。
ちょうどいい口実だ。来るべき対談の日に備えて、少し自分の時間が欲しかったから。




