疑念:毒
翌日、七海は会社を休んだ。
体調不良とのこと。
被害妄想なのは百も承知なのだが、心なしか周りの目が冷たく感じる。
(無理させたんじゃないのか?)
(お前ら、何かあったんじゃないのか?)
(勝手に盛り上がって、周りに迷惑かけるなよ)
そんな心の声が聞こえるような気がする。
オレはそれを払拭するように作業に集中し、昨日からの案件にカタをつけた。
気が付けば昼をだいぶ過ぎている。
ふとPCの画面を見ると、双葉からメッセージが届いていた。
「お疲れ様です。休憩行きませんか?」と。
オレは了承し、社員食堂に向かう。
「めずらしいですね。いつもはブラックなのに」
食堂の席に着くと、双葉がオレの買った缶コーヒーを見て言った。
「うん、これ、たまに飲みたくなるんだ」
オレは缶コーヒーのラベルを眺めながら言った。そこには「練乳入り」と書いてある。
「お疲れ様です」
「いや、たいして疲れてないよ。気分の問題」
「タフですね……それに比べてアイツは」
双葉がため息をつく、七海のことを言ってるんだろう。
「連絡取れてるの?」
「はい。加藤さんにゴメンナサイって言ってました」
「別に謝ることないけどな。普通に助けてもらったし」
「アイツ、いつもこうなんです。張り切って自滅するパターン」
双葉がため息交じりに、そして感情が読みにくい目をする。怒っているのか、心配しているのか、それとも……
「今回も、加藤さんに良い所を見せようとしたんでしょう」
「なんか申し訳ないな」
「いえ、加藤さんのせいじゃないです。あの子、実力のある人に擦り寄るんですよ。前は和泉さんでした」
今度は感情がはっきりと読み取れた。
「付き合ってたの?」
「そこは分かりません。たぶん付き合ってないんじゃないかな?仕事の技術以外はあんまりあの子のタイプじゃないし。でも和泉さんの方は、かなり意識していたと思います」
「七海はその好意は分かっていたの?」
「でしょうね。分かってて利用した感じです。意外にあざといんですよ。あ、意外じゃないか。ははは。加藤さんも気を付けてくださいね」
なるほど。和泉のオレに対する嫌悪感はそれもあるのだろうなと、意外なところで納得をした。
「あっ、ごめんなさい。でも、根はいい子ですよ」
オレが和泉のことで考え込んでいたのを誤解したのか、双葉がフォローを入れる。あれだけ言っておいて、なにを今更というフォローだ。
「まぁ、ちょっと見ていて心配になるところはあるよな」
とりあえずオレは、どっちつかずの、曖昧な返答をする。
「そう、心配になるんです!色々危なっかしくて!」
双葉はオレの言葉に乗ってきた。おそらく(この話題はもういいよ)というオレの空気を察したのだろう。
こういう嗅覚は、本当に女子は凄いなと感心する。
七海にせよ、双葉にせよ、女子は異次元の感覚を持っていると感じることが多々ある。
それゆえに、双葉が今日、こんな話をしてきた意図は何だろう?
そんなことを考え、飲み干したコーヒーの缶を捨てようと席を立った時、経験のある眩暈がした。




