疑念:巨人の声
帰宅するとPCを付け、デバイスを接続する。
しばらくすると、ベーグルからのメッセージが表示された。
「公園 異常固体 発生の可能性」と。
「なるほどね……」
とだけオレは呟く。
脳裏に黒猫の言葉が様々めぐった。
プレジデントとは?ウィッチとは?
「ベーグルはお前に全てを話していない」
と黒猫は言った。確かにそうだ。それは前から、いや、最初から感じている。
「ベーグルに話すことは、良い結果を招くとは限らない」
とも言っていた。更に「誠実でない相手との取引はリスクを伴う」とも。これは文字通り捉えるべきか、ただの分断作戦の為の脅しなのか、オレには判断が付かない。
様々な思いが巡るが、オレは一言だけ呟くように言った。
「行くか……」と。
残業していたせいで、もう日付が変わりそうな時間になっている。
公園には誰もいない。
子育て世帯が多い地域で、比較的治安が良い公園であることが伺える。
オレはいつものベンチに腰掛け、目を閉じた。
軽い眩暈がするが、黒猫に比べたら随分穏やかだ。これは運転技術の差なのか固体性能の差なのかどっちだろうなどと考える。
「どうした?もう侵入したぞ」
頭上からベーグルの声が聞こえた。
「悪い。ちょっと考え事してたんだ」
目を開けると、蜂形態のベーグルが飛んでいる。
「気を付けろよ。今日はかなり物騒だ。問題のヤツは、広場にいる」
「分かった。行こう」
それだけ言うと、オレ達は広場に向かった。
辿り着くと、一目でそれと分かる物が2体いた。
いずれも身長は2mを軽く超えるだろう。異界の和泉よりもさらにデカイ。
ただ、武装は貧弱で、和泉のような鎧はなく、太いこん棒のような木の枝を手に持っていじっている。
ベーグルは「物騒」と言ったが、2体とも何をするわけでもなく、ただ胡坐をかいて座っていた。
「なぁ、アイツらって、放っておいちゃダメなのか?」
改めてオレは聞いた。
「今更どうした?あそこまで強大になると、現世への影響も顕著になる。大樹を忘れたのか?」
「何か実害出ているのか?」
「まだ分からない。大樹と少女のように特定の人の念に強く影響を受けた様子はないが……」
「この前言ったよな。人通りの多い場所でオレだけ食われるのはおかしいって。公園みたいな所は被害が分散するんじゃないのか?」
大樹と違い、コイツラは歩き回れるだろう。ならば、なおのこそ捕食対象は分散され、実害は出にくいのではないか?
「今でこそ分散しているが、アイツらがこのまま力を持てば、その分散した被害一つ一つが大きくなる。要は『あそこに行くと生気が吸われる』という、怪奇スポットのようになるだろう。短期間で急成長したアイツらは、間違いなく人の情報も、ネイムも大量に食っている。共食いを覚えたここのヤツらは危険なんだ」
ベーグルはいつになく熱弁した。
「なるほどな。。。分かった。じゃあ、頼む」
そう言うとオレは黒衣に包まれ、手には刀が握られた。
あの巨体2体相手に鈍器はキツイ。あまり刃物を振り回すのは現代日本人の倫理観として好きでは無いが、今回は背に腹は変えられない。
オレが正面から歩み寄ると2体は立ち上がり、こん棒を構え、臨戦態勢を取った。
有難い。仮にも人型をした無抵抗の相手を、こちらからは斬りたくない。
「ベーグル」
オレがそう言うと、蜂型ベーグルはグローブ上に変形し、オレの左手に装着された。
戦法は基本、対和泉戦と同じだが今回の方が少しエグイ。
まず一体に向って走り込み、振り下しのこん棒の初弾を外す。
そして、懐に入り込み、片足の膝から下を斬り落とした。
たまらず倒れる巨人ネイムその1。
その間に切り離した足を、左手に装着したベーグルで吸収。
巨人ネイムその1は斬られた片足を再生して立ち上がる。再生した分、全体が一回り小さくなっているが、それでも2m弱はあろう。
「来いよ!」
オレは剣を構えて挑発をした。
「うぜぇ!しね!」
巨人ネイムその1が叫ぶ。そこからも、コイツは人間の情報をかなり食っていることが伺える。
「やってみろ!」
と言いつつ、オレは踵を返した。そしてあっけに取られている巨人ネイムその2の腕をこん棒ごと斬り落とす。
再び踵を返し、巨人ネイムその1に向かいつつ叫んだ。
「ベーグル!」
それと同時に手に持った刀が、薙刀に変形する。
オレはそれを両手で持って強振。
巨人ネイムその1の両足を薙ぎ払った。
こんな攻防を数回繰り返すと、巨人ネイムは2体とも子供サイズまで小さくなった。
「スミマセン!」
急に一体の元巨人ネイムが声を出す。
「ゴメンナサイ」
もう一体も追従する。
「ゴメンナサイ、スミマセン、モウシマセン、ゴメンナサイ、スミマセン」
二人の大合唱に、オレは薙刀を下した。
「どうした?」
とベーグル。
「もういいだろ」
とオレ。
「今はいいが、力を持つことを覚えたヤツらだ。いずれまた増長する可能性が高い」
「そうなったら、またシメてやるよ」
「……」
別に黒猫の言葉を完全に信じたわけではないが、どうしても気が乗らない。
それよりも他に、考えるべきことがある。
「帰るぞ!」
オレは意志を込めてそれだけ言うと公園を後にした。




