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疑念:七海


 これはデートなのだろうか?

 

 S駅で降り、T線の改札を出ると、既に来ていた七海が手を振っていた。


「すみません。お休みの日に」

 と七海。

「いいよ。どうせ走るかジム行くぐらいしかやることないし」

 と答えてから恥ずかしくなり、内心悶える。

 なんだこの「鍛えてます」アピールは?!何を意識してるんだ?と。


「こっちなんだ。出口間違えるとハマるから」

 そう言って、テレ隠しにオレは足早に歩きだした。

 ……が、また後悔する。

 なんか、こう、クールに用件だけさっさと済ませる感もダサいよな。というか感じ悪い。

 仕切り直して歩を弛め、七海と並んで歩いた。


「何回来てもS駅ってよく分からない。オレも本社までの道筋しか自信ないんだ」

「私、それすら分からないですよ。だから行ける気がしなくて」

 と七海。これが今日の目的だ。

 

 七海が本社で開催される研修に参加することになったのだが、ウチの本社は駅から少し離れて分かりづらい所にある。

 それに加えて首都圏のターミナル駅は、駅そのものが複雑なので行ける気がしないと。

 だから下見に行くというので、案内することになった次第だ。


「ホント、助かりました。田舎なら携帯の地図見て行けるんですけどね。都会は分かりづらくて」

「だね。そもそもターミナル駅の地下移動は、携帯の地図じゃ分からない」

「そうそう。私、地下だってことすら気づかず、ずっと出口を捜して彷徨ってたことあります」

「うん、わかる」

「……」


 一旦盛り上がるも、一通りの業務連絡派生の会話ネタが尽きると沈黙になる。

 話題を変えるか。でも「休みの日は何してる?」は今時はセクハラになるんだっけ?


「ああ、ここ覚えておくといいよ。ここで右だから」

 と、一旦道案内で会話を繋いだ。

 七海は「はい」と、携帯で写真を取る。


「そう言えば、なんの研修なんだっけ?」

 その間に考えた無難な質問をする。情けないと思いつつ、やっぱり仕事に絡めた方が話が持つ。

「情報セキュリティです」

「今更?何かトラブルでもあったのかな?」

 会社がセキュリティ関係の研修をする時と言うのは、何かあった時のことが多い。

 別にやましいことなないつもりだが、小川の件や、和泉の件で何かヤバイことしてないかな?と自身を振り返った。


「どうなんでしょう?ただ、研修自体は2年目のフォローアップなので、前から決まってましたよ」

 七海は少し考えてから答える。

「そっか。しかし、なら、あまり面白い話題は無いかもね。セキュリティって、結局は常識的なことを徹底しましょうってことだから」

「はい。眠らないように頑張ります!」

「はは、研修は苦手な方?」

「ずっと座学は好きじゃないです。何かモノを作る演習なら好きなんですけど」

「分かる!元々エンジニア志望でウチ来たの?」

「それもありますけど、なんとなくですよ。大学の専攻が数学だったんで、募集がIT系が多いってのが一番の理由です」

「数学なんだ。一緒だね。分かる。オレの時もITか院に行くのが多かったな。後は教員か公務員。こっちは狭き門何で目指す人は苦労してたね」

 共通の話題を一つ見つけた。

 これでもうしばらく間が持ちそう。


「ここか!いや、一人じゃ絶対これ無いな!」

 本社があるビルに付くと七海は大きく背伸びをした。

「だね。ここの4Fと5Fがウチのフロア。今日は休日だから閉まっているけど平日なら開いてる。で、そこのエレベーター上がればすぐだから」

 オレは入口のガラスドアの向こうを指さした。

「はい。大丈夫そうです。ありがとうございます!」

 と七海。

 

 さて、この後どうしたものか、食事でも誘うべきかと躊躇していると、七海の方から提案があった。

「ありがとうございます!お礼にコーヒーでも奢りますよ」

 オレはニヤけすぎないよう、かつ、無表情にもならないよう、意識して微笑で止め答えた。

「こんなんで奢らなくていいよ。でも、コーヒーは飲みたいから、どこか入ろうか」


 オレ達は最初に見つけたカフェに入り、小一時間ほど会話を交わした。

 そして、その後の予定を七海に聞かれ、特に予定はないので本屋でも寄って行くと言うと七海も付いてきた。

 その後、七海が気になっているという店で夕食を食べ、解散する。


 これはデートなのだろうか?

 

 別れ際、「またご飯行きましょ」と言った七海の顔が残る。

 そして、帰りの電車内で携帯に届いた「今日はありがとうございました。下見のつもりが、なんか楽しかったです」という七海のメッセージを何度も見返した。


 ハッキリ言って、七海にかまわれるのは嫌いではない。しかし、これをどうとらえたものか。

 いや、ただ道案内をし、買い物をし、食事をしただけだ。勘違いするなともう一人の自分が言う。


 そんな複雑な心境で帰宅した。

 そして流れ作業でPCを起動し、ベーグルと繋ぐ。これはもうルーティンとなっており、半ば無意識に行っている。


「どこへ 行ってた?」

 画面にベーグルの言葉が文字表示される。


「別にどこでもいいだろ、職場の同僚と打ち合わせだよ」 

「本当か?」

「なんで嘘つく必要があるんだよ」

 まぁ、実際は嘘をつく必要はある。職場の後輩女性と仲良くなれるかもという、淡い期待が出来たことなんて、言えるもんじゃない。

 だが、ベーグルの答えは、背筋が凍るものだった。


「お前 かなり 情報(マナ) 喰われている」

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