いいひと連合:鎧
そこに穴はあった。
和泉の住居のすぐ近く。
退職代行からは、本人に直接接触しないよう注意されているが、「直接」は接触しないので問題はないだろう。
昨今の会社では、人事は従業員の住所は簡単には教えてくれない。
しかし、職場のメンバーとの雑談の中で存外簡単に聞き出すことができた。「人が最大のセキュリティホール」とは、正にその通りだと思う。
「カ・・・ト・・・ウ・・・」
異界に入ると、こちらが探し当てる前に異様な人型ネイムに声をかけられた。
いや、これは人型と言うのだろうか?
身長は2m近くある。体重はなんともいえない。全身に鎧を纏っていたからだ。西洋の甲冑とも日本の鎧ともつかない独特な形状の鎧。一部はメカのようにも見える。
全身をそんなもので覆われているのだが、顔だけは間違いなく和泉だった。
「和泉のイメージの中の鎧だから、実在する鎧とは形が違うのだろう。なんにせよ凄い重装備だ。ちょっとやそっとの攻撃は通らないぞ」
とベーグルは言う。
「しかし、かなり負の念が強い人間のようだ。ネイムとの相性が良すぎるんだな。そしてお前、相当恨まれてるぞ。憎しみがネイムにまで伝染っている」
だからこそ、異界に侵入したオレを目ざとく見つけて追って来たのだろう。
「オマエガッ!コナケレバ!!!」
明らかな敵意を向けて、和泉ネイムは拳を振るってきた。
オレはそれをバックステップで躱す。
「オマエガ、イナケレバ!!」
和泉ネイムの腕が伸び、やがてそれが剣になった。
「ジャマヲ!スルナ!!」
反対の腕が変形し、拳銃を持った形になる。
「アヤマレ!アヤマレ!アヤマレ!!!」
両の武器で威嚇しながらジリジリと近づいてきた。
「ベーグル、もう一回聞くが、これは和泉じゃないんだよな」
オレは和泉ネイムの怒りとも悲哀ともつかない表情を眺めながら聞いた。
「ああ、倒しても和泉当人に実害はない。むしろ精神悪化を止めることが出来る」
ベーグルは質問の意図まで把握した上で答えた。
「分かった。ベーグル、やろう」
そう言うと、オレの全身を黒スーツが包み、右手に武器が握られる。
今回は木刀ではなく木製バットをイメージした。
「アヤマレ!コロスゾ!アヤマレ!アヤマレ!」
そう激昂している和泉ネイムにオレは近づいていく。
和泉の情報を食い過ぎたせいか、コイツはどうも人間臭い。だから調子が狂う。
しかし、それがコイツの弱点でもある。
「アヤマレ!イイノカ!ホントニヤルゾ!アヤマレ!」
そう言いながら威嚇で銃を構え、剣を振り上げる。
その瞬間、ためらわずオレは懐に飛び込み、右膝に向って両手でバットをフルスイングした。
バランスを崩し、よろける和泉ネイム。
その片腕を引いて、巻き込むように倒した。
別に攻撃なんか通らなくていいんだ。
オレは倒れた和泉ネイムに馬乗りになる。
「ベーグル」
そう言うとベーグルはオレの右手に同化する。そのまま右手で和泉ネイムの額に触れた。
これまで交戦した人型ネイムとは比べ物にならないぐらい抵抗が無い。
自らの鎧で上手く動けないのだろう。
「守りは大事だが、過ぎた守りは枷になる・・・」
そう誰に言うでもなく呟くと、和泉ネイムは完全に吸収され、姿を消した。
「よし!やったな」
とベーグル。
「ああ。帰ろうか」
「どうした?何か気になることでもあるのか?」
オレのテンションの低さを気にかけたベーグルが声をかける。
「いや、今更こんなことしても、何も解決しないんだよなって思ってね」
和泉の退職は受理されている。もう戻ることは無いのだ。
「そんなことはないだろ。これで和泉は精神悪化に歯止めがかかる。お前は和泉を救ったんだ」
「そんなもんかな?」
「そうさ」
これ以上話を掘り下げる気にもならなかったので、オレは納得したフリをして会話を切り上げた。




