いいひと連合:穴
「そもそも『穴』って何なんだ?」
オレは聞いた。
「異界も現世も同じ世界なんだろ?層が違うだけで。そもそも層って何だったけ?」
これらは一度ざっくり聞いて、なんとなく理解していたのだが、よくよく考えるとよく分からない。
よく分からないからこそ、考える度に諦めて思考停止しているとも言える。
最近あまりに頻繁に現世と異界を行き来しているので、かえって、これらの関係性がよく分からなくなってきた。
だから、今一度少し整理をしたい。
コーラしかエネルギー源が無かった当初と違い、ここでの滞在時間も伸びた今なら聞いてもいいだろうと思っての質問だ。
「『穴』は、お前らの世界の物で例えると、wifiみたいなもんだ。通信拠点みたいな・・・そうだな。せっかくここにいるんだし、見た方が早いか」
ベーグルはそう言うと、公園を出て大通りに向かうように促した。
地形は現世まんまなので、もう慣れ知ったる場所。オレは最短距離で通りまで出た。
公園の中はグレースケールの現世のような印象だが、通りに出ると途端に殺風景になる。
建物は積み木のような簡単な造形になっているのだ。現世の人工物は、ここではかなり抽象化されるとのこと。
しかし、何時もと様相が違う。
通りに人型ネイムのようなものが多く歩いている。
それらは見たことが無いネイムだ。形は人型だが、色が違う。通常ネイムは黒なのだが、コイツらは赤い。そしてモヤがかかっている。
「ベーグル!」
おれは身構えて声をかけた。そこには「武器をくれ」という意味を込めて。
しかし、いつもなら手に握られる武器が出てこない。
「大丈夫だ。これらはネイムじゃない」
「??じゃあ、なんなんだ?」
オレの疑問にベーグルは落ち着き払って答えた。
「人だよ。お前の世界の」
「??」
「さすがに消耗が激しいな。少し解像度を落とすぞ」
ベーグルが独り言のように言うと、遠くに見えた赤い人影が消えた。近くにいた人影も、人の形ではなく、ただの赤いモヤのようなものになった。ちょうどゲームや動画で画質を落とした感じに近い。
「これぐらいがネイムから見えている世界だな。お前もネイムからは通常こう見えている。捕食対象となると必要に応じて解像度は変わるがな」
ベーグルがそう言うと、近くの『人』がモヤになったり人になったりした。おそらく見え方のデモンストレーションをしているのだろう。
「と、いうことだ。一旦消すぞ。無駄な消耗はしたくないからな」
呆気に取られるオレの回答を待たずに、赤モヤは消えた。
「宇宙が持つ情報というのは膨大なんだ。それを全部知覚する必要なんて無いし、出来るヤツもいない」
ベーグルは解説を始める。
「それぞれが知覚できる情報が限られているわけだが、知覚できる情報の種類が同じ者同士は相互に干渉できる。そういう者達で構成された集団が層だ」
オレの理解は置いておいて、ベーグルはそこまで一気に説明した。
「分かったような、分からないような」
とオレ。
「前にも言ったが、電波をイメージしたらどうだ?お前の世界では空間には様々な電波が飛んでいるが、それらは干渉してないだろ?その電波にチューニングを合わせた端末だけが画像なり音なり電波から情報が取れる」
「だからwifiか。要は、別の電波を傍受したり、その電波に情報を載せて送ったりできる場所が穴だと」
「そういうこと」
確かに一度聞いた説明だが、いくつか体験を踏まえた上で再度聞くと、少し理解が深まった気がする。
「そう言えば、こっちに来ている時、現世ではオレはどうなってるんだ?」
理解が深まると、新たな疑問が沸く。
「何もしなければ普通に存在しているんだが、色々面倒だから今は消している。現世の人間に知覚・接触出来ないように少しだけお前の基本情報を操作している形だ」
「うん・・・ありがとう」
オレは現世の何もない公園で、そこには見えないネイムと格闘している自分の姿を想像して身震いした。
「で、話を戻すと、wifi同様『穴』には有効範囲がある。だから穴が無い所では、ネイムからは現世は見えない。お前の職場にもネイム自体はいるが、彼らから現世の人間は見えない。当然、干渉も出来ないはずだ。だから、もし、ネイムの影響があるとしたら・・・」
「したら?」
「お前の職場のメンバーが集まる場所がどこかにあって、そこに穴があるとかだな。まぁ十中八九、気のせいだと思うぞ」




