いいひと連合:スーツ
その日も定時に帰り、公園の異界に入った。
大樹ネイムや武装ネイムのようにヤバいヤツはもういなくなったが、別の目的がある。
「よし、頼む、ベーグル」
オレがそう言うと、まず右手が黒いグローブで覆われ、ついで左手、右足、左足、頭部。最終的には眼を残した全身を黒い膜が覆う。
「全身タイツみたいだな。もっとカッコよくならないか」
自分の体を確認しながらオレは言う。
「出来ないことは無いが、その為に情報を使うのもどうかと思うぞ。機能的にはそれで十分だ。今日の所はそれで我慢しろ」
と傍らを飛ぶ蜂が言った。この蜂はベーグルが変態した姿だ。
少し前から異界では、溜まった情報で自律異動が出来るようになり、コイツはこの姿が気に入っている。
「機能的に意味があればいいんだな。それなら・・・」
「この話は一旦終わりだ!来るぞ!」
ベーグルの声に周りを見ると3体の人型ネイムに囲まれている。
ヤツらは同時にじりじりと距離を詰めてきた。
大樹ネイムという共通の敵が現れたことで、コイツらは連携を覚えたのだ。
「ちょうどいい!」
そう言うや否や、オレは正面にいるネイムに向って駆け出した。
そして、体勢を低くしてショルダータックルをかます。
そいつと同時に倒れ込むが、こちらは想定している結果だ。オレは受け身の要領で転がって起き上がると、すぐにスタートダッシュを切り、近くまで来ていた1体のネイムにサイドキックを入れた。
打撃ダメージというよりは、押し込んで飛ばすような蹴りだ。
そこでまた方向転換し、別のネイムにワンツー左フック。そのまま背後に周り、羽交い絞めの形を取る。
「ベーグル!」
その言葉で、蜂の姿だったベーグルがオレの右手に同化した。
羽交い絞めしたまま、その右手でネイムの後頭部を鷲掴みにすると、徐々にネイムの姿は薄れていき、やがて消えた。
完全にベーグルに捕食されたのだ。
その様子を見て他の2体は距離を取り、やがて去って行った。
「いい感じだな」
と蜂の姿に戻ったベーグルが言った。
オレはこの異界では異質な存在なので、生身ではネイム達に接触できない。異界の情報で作ったグローブや武器を介して戦ってきたのだが、やはり不便だ。
だいぶネイムを捕食し、情報も溜まって来たので、全身覆うスーツを作ってみようと言うのが今日の試み。
やはり体当たりや蹴り、そして抑え技が使えると随分出来ることが広がる。
そのまま広場に出て、数体と交戦を躱した。
先に捕食した情報を元に、木刀をイメージした武器を制作。全身スーツと武器を交えた戦法を様々試す。
もう、ここには大樹ネイムのようなヤバいヤツはいないのだが、いつまた強敵に遭遇するか分からないし、備えるに越したことは無いからだ。
「今日はこれぐらいでいいんじゃないか?」
とベーグル。
「そうだな。あっ、そう言えば」
そこでオレは今の職場のことを相談した。
なんでもかんでもネイムのせいにするのもどうかと思うが、どうも違和感がぬぐえないからだ。
「人間って複雑なんだな」
ベーグルは一通りオレの話を聞いた上で言った。
「オレには、『良い人だから怪しい』と言う感覚はよく分からないが・・・」
「分からないけど?」
ベーグルは一呼吸を置いてから言った。
「あの職場、別に穴は開いてないぞ。綺麗なもんだ」




