いいひと連合:異文化と異分子
新しい職場に異動になって1週間が経つが、いまだに定時退社出来ている。
その為、公園のパトロールが日課になりつつあった。
異界の方は、当初はやはり生態系?の乱れがあった。大樹ネイムは急速に弱化し、数日で存在も消えてしまった。その代わりに一部の人型ネイムが大型化、武装化をするようになる。
捕食した情報を材料に道具を作るのは、何もベーグルの専売特許ではないようだ。
そう、『異界は情報で構成された世界』というのは、定義では分かるが、会話でジョウホウと言う言葉を使うと紛らわしいので、あちらの情報はマナと呼ぶことにした。もちろんファンタジー用語から取ってきている。
強すぎるネイムがいる状態では、またこっちの世界に影響が出るかもしれないということで、数日かけて駆除を行い、ようやく異界も現世も平穏になってきた所だ。
そんな折、夕方の緊急会議で宿題を貰った。
既存のクライアントから、ちょっとしたシステム変更の依頼があり、まずは、どれぐらいの工数がかかるか調査、見積もりをとのことだった。
「今、抱えてる仕事はみな同じぐらいか・・・ならジャンケンで決めるか」
と主任の平沼が言った。担当者をどう決めるかと言う話だ。
「いや、自分ヒマなんで、やりますよ」
と、オレが手を上げる。
「加藤さんが仕事早いだけでヒマじゃないでしょ」
ベテラン技師の和泉が言うと、他のメンバーも賛同する。
「そうですね。その理屈なら優秀な人に仕事を押し付けることになってしまう。ここは公平に行きましょう!ただ、自分ジャンケン弱いからな。アミダにしませんか?」
「苦手を避けるのは公平か?」
ここで笑いが起きた。ただ、特に反対者もいなかったので、なごやかにアミダで決め、結局オレが負けた。
「あら、あんなこと言うから」
「でも決まったならしょうがないっすね。一応お願いします。何かあったら相談してください」
「いや、大丈夫っす。これぐらいなら2時間ぐらいあればできそうなんで、今日中にやっときますよ」
と、周りの気遣いに応えるべく、やる気を見せる。
実際、さほど難しそうな内容ではない。システムのどこをいじればいいかと、必要な資料がある場所はもうだいたいアタリがついていた。
しかし、主任の返答はオレには意外だった。
「いや、もうすぐ定時なんで、明日で良いですよ」
周りはさも当然と言う顔で頷く。
「でも見積もりは早い方がいいんじゃないですか?」
「ええ。でも要件頂いた時に、見積もりは2,3日と伝えているので無理なくて大丈夫です」
「はぁ、分かりました」
前の部署と違い過ぎるので、どうも調子が狂う。
『1秒でも早く見積もりを出すのが誠意を示すことになり、受注につながるんだ!』なんて言われて育ったものだから、これで成立している世界があることに驚く。
「まぁ加藤さんレベルなら、楽に出来るかもしれませんけどね。ただ、あまり早すぎるとそれが先方にも当たり前になるのでね、そうなると、こっちも後々厳しくなりますから、無理せずでいいですよ」
と平沼。
顔は笑顔だが、オレは背中にゾクりとしたものを感じた。
その言葉は、きっと気遣いではない。
「余計なことをするな」というプレッシャーに近い物が、オレには感じられた。




