キラービー:潜入
一旦帰宅し、ベーグルといくつか打ち合わせをしつつ、日が落ちるのを待った。
そして、広口タイプのサーモスにコーラを入れ、ベーグルを入れ、トレイルランニング用のリュックに仕舞う。
異界に入れば普通にベーグルとは会話出来るので、特にPCやデバイスは持って行かない。
格好は動きやすいようにTシャツの上にウンドブレーカー。下は細身のジャージと薄底のランニングシューズ。
普通に見れば公園にランニングに来たように見えるだろう。
実際、軽いジョグをしながら公園に向かい、ベーグルと打ち合わせしていたベンチに座った。
この公園には異界への穴は数か所空いているという。
いきなり本丸の花壇近くは危険だろうと、少し離れた場所から潜入しることにしたのだ。
ベンチに座り、リュックを下してサーモスを取り出して、蓋を開けた。
そこで目を閉じる。
傍目には、ランニングの合間に休憩しているように見えるよう振舞いながら。
「OKだ」
ベーグルの声に目を開けると、そこは一面グレーの世界になっていた。
グレーの空に、グレーの地面に、やや濃いグレーの樹木。
ベンチや管理事務所のような建物は、直方体のような形になっている。
どうもこの世界は、生命体は単にグレースケール。人工物は情報が落ちたような形になるようだ。
そして、そこかしこにネイムがいる。中には小川ネイムのように人型に近いものや、4足歩行の動物のような形状をした変異型もちらほら見受けられる。
「多いな」
オレはサーモスを仕舞い、リュックを背負い直しながら言った。
ベーグルは既にオレの右手を覆い、左手にも黒手袋が形成されている。
「うむ。やはり会社とは比にならないな。おっと気を付けろ!」
ベーグルの警告と同時にオレは身構える。
人型ネイムの1体が駆け寄ってきたからだ。
ものは言わないが、気配から明らかな敵意を感じる!
「やっちゃって構わないよな?善良なネイムっていたりする?」
「いない!やれ!」
その言葉と同時にオレは駈け寄って来た人型ネイムを体当たりで迎え撃つ。と言っても、オレからの接触はグローブ部分でしか出来ないので、相撲で言う諸手突きの格好だ。
たまらずよろける人型ネイム。
そこにワンツー。そして右ストレートを打った手を引かず、そのまま相手の左手首を掴んだ。
その掴んだ手を引きながら、オレは左回りにステップし、左ストレートを顔面に入れる。
「ベーグル!」
一言だけそう言うと、続けて右手で掴みながらの左パンチを顔面、ボディへと打ち込んでいく。
ベーグルは発声時のオレの脳波を読むので、皆まで言わなくていいのだ。
最初は抵抗を試みた人型ネイムだが、数発目のボディへの左フックが空を切った。
左パンチで意識を散らしつつ、掴んだ右手、即ちベーグルの本体でネイムを捕食してしまおうという、咄嗟に思いついた作戦が見事に決まった形だ。
同じような作戦で、襲い掛かって来る人型ネイムをもう2体、計3体捕食すると、オレの周りに空間が出来た。スライム状のネイムも、変異型ネイムも明らかにオレを警戒し、距離を取り出した。
「学習するのか?コイツら?」
「そうだな。今のは生存本能としての原始的なものだが」
「『今の』ってどういうこと?他もあるの?」
「小川ネイムは話しただろ。捕食した相手の情報を学習するケースもある」
「そうだったな・・・」
オレは軽く身震いした。自分もベーグルにネイムを捕食させているの身勝手なもんだと思いつつ。
なんにせよ少し歩きやすくなったので、警戒しつつオレ達は花壇のある広場へ向かうことにした。




