キラービー:情報収集
公園から大通りを挟んだ所にそのカレー屋はある。
おそらく、この周辺で唯一の飲食店だ。それ故、時刻は15:00を過ぎていたが、カフェ利用と思われる客で席の半数は埋まっていた。
「お好きなお席にどうぞ」
と、入店するとすぐに声をかけられる。
座席を見ると、タブレットで注文する形のようだ。そこで少し当てが外れた。
もし、田舎の話好きな店員がいるような店なら、何か情報が得られるかと思ったのだが、入ってみるとチェーン店っぽい。
せっかく店員が話しかけやすいように、蜂に刺された腕に大げさに包帯を巻いてきたのだが、意味は無さそうだ。
というか、冷静に考えれば、こんなのは商談のアイスブレイクテクニックだ。今時の飲食店の店員が、包帯に興味を示してコミニュケーションを取って来ることなんてないだろう。それに気が付き、オレは少し気恥ずかしくなった。
ならばと、軽く店内を見渡し、座る席を決める。
いくつかのグループがあるのだが、盛んに会話をしている主婦達の声がギリギリ聞こえるぐらいの席に座った。
タブレットで注文を済ませ、ドリンクバーでアイスコーヒーを淹れ、席に戻る。
まもなく注文の目玉焼き&ウインナーカレーが運ばれてきた。
それを数口食べた所で、かかって来た電話を取った・・・フリをした。
「もしもし。はい。付きました。ええ。すぐ見つかりましたよ。地図分かりやすかったです。ありがとうございます。一息ついてカレー食べてる所です。はい。多分その店です。美味いっすね!」
最後の『美味いっすね』は店員に聞こえるように言う。
「はい。ありがとうございます。大丈夫です。大丈夫なんですけど・・・蜂に刺されました!ははは。あの公園、蜂多いっすね!いや、大丈夫ですよ、ミツバチなんで。ええ、気を付けます。ありがとうございます」
そして、電話を切るフリをして、しばしカレーに集中する。
先ほどは、味わう前にリップサービスで言ったが、本当に美味い。
黒みがかったドロッとしたルーに、千切りキャベツが添えられている金沢スタイル。
ただ、金沢カレーほどはクセがなく、万人向けに調整されている印象。
卓上の中濃ソースはオリジナルブランドのようだ。トッピングやキャベツにかけつつ、『ついうっかり』カレーにかかってしまった部分も味変になり、スプーンが進む。
それに対して福神漬けは真っ赤な既製品で潔い。うん。カレーの福神漬けは、拘らなくていいんだ。福神漬けでさえあれば良い。
そんなことを考えつつ、一気に平らげ、ドリンクバーでおかわりのアイスコーヒーを取って席に戻った頃、先程打った呼び水が聴いてきた。
「蜂、駆除してくれないよね」
主婦テーブルの一人が話を切り出す。
オレはコーヒーを飲みつつ、携帯を見ているフリで聞き耳を立てた。
「管理事務所に言ったことあるんだけどさ、全然やる気無いの。『上に言っておきます』って」
「上に?」
「ほら、あそこにいる人達って、ほとんどボランティアみたいだから、権限無いんでしょ」
「でも子供が危ないよね。やる気でも権限でも出して貰わないと」
「子供が危ないと言えば、広場のボール遊びもさ、言ったことあるけど全然注意してくれないの」
「わかる!あれ危ないよね。なんで禁止してくれないんだろう」
なるほど。子を持つ親、管理事務所、ボール遊びの苦情か。これらの関係者の中に蜂の親玉がいるかもしれない。
主婦達の会話から、それ以上の登場人物が出なかったので、オレは店を出ることにした。
会計もセルフレジ。
店員に「美味かったです。ここってチェーン店なんですか?」とか話せば、多少会話出来るかな?という作戦も不発。
(ホント・・・これ意味無かったな)
店を出て、腕に巻いた包帯を取ろうとして思い留まった。
帰りに管理事務所とやらで、軽く雑談でもしてこよう。




