キラービー:公園にて
異動先の職場は、そのまま出勤しようとすると、電車で片道2時間かかる。
幸い、近くの社宅に空きがあるとのことで、そこに転がり込むことにした。
必要最低限の家具は備え付けであるので、引越準備の9割は、溜まった本や雑貨を処分することだった。
それに丸一日費やし、段ボール5つに集約した荷物を発送すると、2日分の着替えとノートPC類だけをリュックに背負って、オレは新居に向った。
「なんもねぇな・・・」
最寄り駅を出ると、思わず声に出して呟いた。
新しい職場から3駅のそこは、話には聞いていたが、本当に施設らしいものが何もない。
駅直結のスーパーが、かろうじて一つあるぐらいで、あとはひたすら戸建ての住宅が並んでいる。
逆に言えば寄り道するような所が何もないので、オレはすぐに貰った地図を片手に社宅に向かうことにした。
社宅と言っても借り上げアパートだ。決して目立つ建物ではない。
幸いなのは、近くに大きな公園があるようなので、まずはその公園に向かった。
そこは難なく見つかった。
すっかり葉桜にはなっていたものの、少し前なら花見でさぞ賑わっただろうという公園だ。
オレは地図を見つつ、その公園の中を通り抜けて社宅に向かうことにした。
平日の昼間だが、多くの幼児をつれた親子の姿が見られる。
遊具広場、野球場、テニスコートの他に、広めの原っぱがあり周辺はウォーキングやランニングの走路ようになっている。
オレは再度地図を確認し、原っぱを横断するように足を踏み入れた。
青々とした芝生を踏みしめる感触が良い。ここはここで不整地のランニングにも良さそうだ。
なにせ、いつまた小川ネイムのようなヤツに遭遇するかもしれない。体力作りはしたいと思っていた所なので、ちょうどいい。
(後でまた来てみよう)
と、思った所でオレは一瞬身をかわした。
一本の樹木の周辺がロープで囲われ、『ハチがいます』という札が下がっていたからだ。
オレは、そこから少し距離を取る。
これだけ自然が多ければ、蜂ぐらいはいるだろう。だから、それに対してオレは、恐怖と言うよりは(随分管理された公園だな)という印象を受けた。
季節はまだGW前。この時期に飛び回っているのは主にミツバチ。スズメバチはいたとしても女王蜂。そこまで危険な蜂は多くないはず。
まぁ、子供が多いからなのかな?と考えていると、またロープで括られている区画があった。
そこは花壇。
やはり「危険!ハチがいます」という札が下げられている。
(花壇にいるハチはミツバチだよな?)
そう思って花壇に近づき、覗き込もうとすると、遠くから声をかけられた。
「危ないですよ!」
「でも、ミツバチなんじゃ、痛っ!」
声の主に振り返り様確認しようとすると、腕にチクリとした痛みが走る。
いつの間にか腕に3匹のミツバチが止まっていた。
「うわっ!」
咄嗟に腕を振り払う。
二匹は飛んでいき、既に刺した一匹はそのまま腕に針でぶら下がっている。
オレはそれを指ではじくと、今度は腿に痛みが。
やはり数匹が脚に止まっていた。
そして、耳元には二、三匹では済まない羽音がする。
「離れて!」
声の主はそう言いつつ、自分も立ち去って行った。そして、気が付けば周りの人も走って逃げていく。母親も幼児を抱えて足早に距離を取る。
ただならぬ様子に、オレもようやく花壇に背を向けて走った。
逃げながらも気が付いた。
この公園は、そこかしこにハチに関する注意喚起がある。
それを避けつつ、なんとか公園を出ると、改めて数か所に痛みを感じる。
腿と肩には、おそらく刺したであろうミツバチがぶら下がっている。
それらを指で弾き、リュックを下すと、そこに付いていたであろう二匹が飛び去って行った。
「何なんだここは?!」
オレは社宅に着くと、何よりも先にPCを開き、ベーグルとの会話デバイスを繋いだ。
そしてマグカップにコーラを注ぎ、ベーグルを浮かべる。
すると、オレが問いかけるまでもなく、モニタにベーグルからの言葉が表示された。
「公園 ある 異界の穴」




