序章:顛末
翌日、小川部長の休職が知らされた。
理由は病気療養とのこと。
オレが小川ネイムを駆除したからか?とベーグルに聞いてみたが、そうではないらしい。
あそこまで情報を食われていたら、はっきりと体調を壊すのも無理はないとのこと。逆に小川ネイムの駆除は進行を食い止めたことになるので、回復は時間と当人の体力次第だとか。
職場の連中は相変わらずだ。
先日の一時のやる気は、やはり保身の為だったようだ。状況が変わったら、何をするにしても異口同音に『小川がいないから分からない。動きようがない』と言うようになった。
唯一違うのは、そう言う時のメンドウ事をオレに押し付けなくなったこと。
これも善意ではなく、噛みつかれたら厄介だと思われるようになったのだろう。
「ネイムに食われた情報を戻したら、小川もコイツラも少しはマシにならないのか?」
とベーグルに聞いてみたが、それは無理と一蹴された。
ベーグルは言う。
「お前は、今朝食べたパンを腹から取り出して小麦に戻せるのか?」と。
確かにな。
こちらに戻ってからは、やはりベーグルとはツールを介した文でのやり取りになる。
もっとネイムを食ったら、こっちのレイヤーで会話出来る器官が作れるかもとベーグルは言うが、しばらくはこれでいいだろう。
会話に時間がかかった方が、考えをまとめる時間が取れる。
やはり、ベーグルは何か嘘をついている、もしくは隠していると思う。
コイツは、特定の質問をした際と、それ以外の会話における情報量に差がありすぎる。
特定の説明をする時にだけ、例え話をふんだんに使い、不自然なほど分かりやすくなる。それらが商談やプレゼン、会議での駆け引きを連想させるんだ。
納得させる為の説明を事前に設計し、想定質問に対する回答も準備しているような話し方。
最初、質問に対するコイツの回答が(会話型AIみたいだな)と思ったが、案外、実際にそれと同じような学習をし、準備していたのかもしれない。
考えすぎかもしれないが、様々な理論武装をするヤツらから仕事を押し付けられてきたオレは、こういうのに敏感なんだよな。
じゃあ、コイツの目的は何か?
何か意図があるとするなら、コイツはオレに何をやらせたい?
そもそもオレがこれをジャンク屋から手に入れたのは本当に偶然なのか?
様々疑問は残っているが、警戒しつつ、追々探っていくさ。
そうそう。オレはなんでネイムに影響されていないのかと聞いてみたら、実はオレもかなり影響はあるとのこと。
ただし、オレの場合、元来の『たいていの人間は、薄っすら信用していない』というネガティブ要素が 際立ったのだとか。だから仕事を抱える結果になったんだとさ。
なんだかなぁ。。。
そして、散々振り回してくれたプロジェクトは、ほどなくして解散された。
更になんと、それを期にオレは別の部署に異動されることになった。
「君の能力は色々な場所で活かした方がいい。その方が君の経験にもなる。この異動は期待の表れと受け取って欲しい」
等と言われたが、十中八九、厄介払いだろうな。
まぁ、それもいいだろう。
ベーグルが言うには、異界への穴はあちこちに空いているらしい。
違う環境に行けば、また別の発見があるかもしれない。
オレは引っ越しや異動準備を理由に、久しぶりに数日の有給を取得した。
そして、今後の準備を色々行うことにした。
ーー 序章 完 ーー
お読みいただきありがとうございます。
この後は、同じぐらいの章(中編)の連作という形で続いていきますので、良かったらまたお読みいただければと思います。




