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序章:連携

 オレがやるべきことは、小川ネイムを捉え、抑え、右手で10秒間接触すること。

 ただし、ヤツに()()()()()触れることが出来るのは、オレの両手だけだ。


 ヤッカイな条件だが、なんとか一つプランが浮かんだ。

 しかし、そのプランは少し複雑な手順になり、しかもベーグルとの連携が必要になる。


 オレは軽くステップを踏み、時折左ジャブを出した。

 当てるつもりは無い。こちらの心の準備が整うまで寄って来るなという、文字通りの牽制だ。


「どうした?どこか負傷か?」

 とベーグル。

「いや、そんなんじゃない」

「ぼーっとするな!来るぞ!」

「分かってるよ!うるせーな!」

 つい語気が荒くなる。


 オレは嫌なことを思い出していた。

 学生時代のボクシング部の試合。

 生涯成績5勝6敗1引き分けと負け越しており、まったく輝かしくない記憶だ。


「休むな!休むな!手を出せ!」

 少し手が止まるとすぐ顧問や仲間から檄が飛ぶ。

「ジャブからだ!ジャブ、ジャブ、ワンツー!」

(そんな大声で言ったら、相手にも聞こえてるよ・・・)

 と、余計に手が出なくなる。


「手を出せぇぇぇ!ポイント取られてるぞ!やる気あんのかぁ!!」

 檄が怒号になってくる。焦りから手を出す。

 しかし、散々周りで言っている通りには動けない。肩で少しフェイントを入れ、右ストレートから入った。

 それも読まれていたのか、あっさり躱されてクリンチされてしまう。


「だ・か・ら!ジャブからだ!ジャブ、ジャブ、ワンツー!!」

 顧問の言葉は、完全に苛立ちにまみれていた。


 クリンチからの離れ際に、相手がボソリと呟く。

「ジャブからワンツー打たなくていいのか?」


 その後、リング外から檄が飛ぶ度に、ソイツはオレにしか分からないようにニヤリと笑う。(聞こえてるぞ)と、言わんばかりに。。。

 それでオレは手が出せなくなり、ずるずると判定負け。


 今回も、その時の状況によく似ている。


 やりたいことはあるのだが、相手を目の前にしている。ベーグルに作戦全貌を伝えるわけにはいかない。なんせ、相手はオレのやることを学習している。言語理解がどれほどあるかは分からないが、一発勝負だ。迂闊なことは出来ない。

 しかし、都度の指示出しで上手くいくだろうか?


 オレは頭で様々シミュレーションをする。


「来るぞ!」

 とベーグル。


 小川ネイムがジャブからのワンツーを打って来た。

 まったく、気に障ることをする。いや、コイツは単にオレのやったことを学習して真似しているだけなんだが・・・


 オレは、その攻撃に対してジャブは右手で払い(パーリング)、右ストレートは左に回り込んだ。それと同時に左フックを引っかける。

「やるじゃないか」

 とベーグル。

 いや、自分の動きだから読みやすいだけなんだよな。


「頼むよ」

 追撃しようとすると、また小川ネイムが声を出す。

「そこは任せるから」

「この!」

「気を付けろ!」

 ベーグルに警告された時には遅かった。

 同じパターンで、また両腕を掴まれてしまった。


「マカセルから、まかせるかラ、まかせーるるるから」

 からかうように声を出す。

 

 そして、両腕を掴んだまま、足払いをかけてくる。さっきと全く同じシチュエーションだ。


 オレは掴まれた腕を押し返すように抵抗しつつ、タイミングをはかる。

 もう、ここでやるしかない。


「好きに指示出してくれてかまわない。まかせるから、マかせるから」

 また小川ネイムがオレの気を逆なでするモノマネ?をしてくる。

「だから!あのアホどもにどうやって指示出せっていうんだよ!一字一句教えなきゃやらねーだろ!!その方が工数かかるんだよ!!」

 コイツは小川ではないと知りつつも、この顔と声で言われると、つい反論してしまう。


(一字一句・・・)

 そこでオレは閃いた。


「このアホ上司が!!!」

 そう言いながら掴まれた両腕を押し返す。

 一瞬怯んだ小川ネイムだが、すぐに体制を立て直し、押し返して来た。


「ベーグル!!!」

 オレは叫ぶ。

「承知!」

 オレの左手の黒いグローブが消え、変わりに右足が黒いソックスのような膜で覆われる。


 オレは掴まれた両腕を引き込むように後ろに倒れ込み、小川ネイムの鳩尾を右足で蹴り上げた。

 いわゆる巴投げの要領だ。


 ヤツは見事に後方に跳んでいく。


「ベーグル!」

 オレは再度叫ぶ。

 すると、右足の膜が再び左手袋に戻った。

 その左手で、まだ倒れている小川ネイムの右手首を掴み、右手はヤツの首を掴む。変形の袈裟固めのような体勢だ。

 

 そう。

 ベーグルは、発声をトリガーにしているとはいえ、言語そのものを理解しているわけではない。思考を読んでいる。

 だから、そもそも言う必要なかったんだ。

 作戦を念じながら名前を呼ぶだけで意思疎通が出来た。


 押さえつけられたまま、小川ネイムはヤツメウナギのような口をパクパクさせる。

 おぞましい絵面だが、オレには高揚感の方が優っていた。


「ワン!ツー!スリー!」

 声に出してカウントを勧める。


「4、5、6、7」

 最初は激しかった抵抗も徐々に力が抜けてくる。それと並行して首の周りから色が抜け、透明になっていく。

「8、9,テーーーーーン!!!」

 およそベーグルの見積もり通り、10カウントで小川ネイムの姿は消滅した。


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