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妄想の歌姫を紹介しろと迫られても困る  作者: kawauso2017
第1部

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第24話 繋がった点と線

 三上は完全に、翠に視線を移していた。逃げられそうになかった。


「あー・・・」


 一度。


 咳払い。


「少し逸れてしまいましたが・・・」


 いや。


 かなり逸れた気がする。


「先ほどのテープについて、お尋ねをしたいのですよ」


「ええ。でも、既に入手済みでは?」


「えっ・・・」


 三上さんの困惑が。


 さらに深くなる。


「不本意ですが、今入手されている物については、使用していただいても差し支えありません」


「・・・・・・」


「ただ」


 俺は。


 少しだけ姿勢を正す。


「やはり、連絡先などをお教えすることは出来ませんし、今後の提供についてもお断りさせていただきます」


「い、いや」


 三上さんが。


 珍しく言葉に詰まった。


「私はボーカルを・・・」


「?」


「楽曲も、歌詞もそうなのですが」


 三上さんは。


 テープを指差す。


「この女性ボーカルを探しておりまして」


「えっ?????」


「え??????」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 しばし。


 沈黙。


「あの・・・」


 俺は。


 恐る恐る聞く。


「檜山さんのデビューの話では?」


「・・・・・・」


「そのための楽曲を提供する作曲家が知りたいのかと・・・?」


「おほん・・・」


 三上さんが。


 わざとらしく咳払いをした。


「いえ」


 少しだけ。


 仕事の顔へ戻る。


「私どもはこちらに持ち込まれたデモテープを歌っている、歌い手に非常に興味がありまして」


「・・・・・・」


「当然」


 三上さんは続ける。


「この、先取りをしたようなメロディも」


「・・・・・・」


「歌詞も」


「・・・・・・」


「全て探していたのです」


「・・・・・・」


 そして。


 真正面から。


 こちらを見る。


「改めてお聞きしますが」


 一拍。


「ご関係ありますよね?」


「そ・・・」


 逃げ道を探す。


 ない。


「そうですね。有りますよねぇ・・・」


 遠い目をする。


 その視線の先。


 何やら。


 また準備をしている檜山さん。


「・・・・・・」


 何をしてるんだ。


 あの人は。


「それで」


 三上さんの声で。


 意識を引き戻される。


「この歌っている子なんですけど」


「・・・・・・」


「香坂さん?」


「あっ、えっ、はい」


「一度、紹介してもらえませんか?」


「すみません。無理です」


「・・・・・・」


「即答ですね」


「本人に了解が得られないのでね」


 存在しないからな。


「でしたら」


 三上さんは。


 少し身を乗り出す。


「こちらから了承を取りますよ。せめて連絡先でも」


「・・・・・・」


 この時代。


 プライバシーなんて。


 あったものじゃない。


 ましてや。


 デビューという甘い声で。


 本人も納得するだろうとでも。


 思っているのだろう。


「ですから」


 首を振る。


「連絡先を教える了承が取れないんですよ」


「どうして・・・」


 三上さんは。


 本当に不思議そうだった。


「こんな良い物が作れるのに・・・」


 そして。


 少し考える。


「もしかして」


「?」


「プロ志望じゃない?」


「はい」


 即答。


「地下ですから」


「は?」


「・・・・・・」


 しまった。


「いや」


 もう遅い。


「地下ドル」


「・・・・・・」


「もしくは地底ドル」


「・・・それは?」


「メジャー怖いって奴です」


「・・・・・・」


「潜ってるんですよ・・・」


「・・・・・・」


 普通は。


 メジャーへ成り上がろうとする。


 だが。


 稀に。


 メジャーを嫌がる子も、事実いる。


 たぶん。


「やはり、せめて連絡先だけでも」


「教えられません」


「名前・・・」


「地底を探せば、あるいは・・・」


「・・・・・・」


 数か月前。


 木崎についた嘘が。


 時間差で。


 俺の首を絞めている。


 三上さんは。


 不思議な表情を浮かべながら。


 それでも。


 暫く食い下がった。


 だが。


 結局。


「本人に、その気がありません」


 その一点で。


 押し切った。


「・・・・・・」


 三上さんは。


 暫くこちらを見た後。


 小さく息を吐いた。


「気が変わったら、ぜひ」


 そう言って。


 再び。


 名刺を置く。


「・・・・・・」


 そういや。


 前回貰ったのは。


 檜山さんに渡しちゃったよ・・・。


 三上さんは。


 そのまま。


 ステージの女の子へ声を掛け。


 そちらへ近寄っていった。


「ふぅ・・・」


 力が抜ける。


「なんか、めちゃくちゃ疲れた・・・」


『自業自得? 因果応報? 何が適切なのでしょうね。不憫なものです』


「お前が言わなかったせいだろ!」


『確認されませんでした』


「・・・・・・・・・・・・」


 何だ。


 その返し。


「あっ」


 思い出した。


「あと木崎だ・・・」


 周囲を見渡す。


「あいつ、何処まで関与してんだ?」


 いない。


「何処までばらまいた!」


 さっきまで。


 この辺りにいたはずの木崎が。


 見当たらない。


「・・・・・・」


 逃げたな。


「あいつ・・・」


 低い声が出た。


「覚えとけよ・・・」


 その時。


 再び。


 ステージから音楽が流れてきた。


「・・・・・・」


 またか。


 見る。


 先ほどの女性。


 茜。


 その隣。


「・・・・・・」


 今度は。


 三上さんまで。


 マイクを握っていた。


「・・・・・・」


 そして。


 店内へ。


 三上さんの歌声が響き始めた。

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