第23話 檜山デビューする?
香坂翠は焦っていた。
◇
目の前で立ち上がり。
こちらを見てくる男性。
東都ミュージック。
プロデューサー、三上。
聞かれることには。
なんとなく予想が付いた。
檜山をプロデュースするために。
楽曲の提供が欲しいと。
おそらく間違いない。
俺の勘では。
十中八九。
そうだろうと想像できていた。
「それで、こちらの曲なのですが・・・」
「お断りします」
「いえ、まだお話は何も・・・」
「提供や紹介でしたら、お断りいたします」
「いえ、せめて会わせていただけないかと」
「すみません。これ以上はマズいと思うんですよ。まずは十分、本人と今後について計画なさった方がいいのではないかと」
「ですから、一度会わせていただいて、ご挨拶をしたいのですが・・・」
「・・・・・・」
ふと。
疑問に思い。
ステージを見る。
なんだか。
次の準備をしているようだが・・・。
「既に、二曲目を準備されているようですが?」
「え?」
三上さんも。
ステージを見る。
「もう新曲を? デビュー予定の方なのですか?」
「・・・・・・」
ん?
その時。
突然。
ステージ脇から声が飛んできた。
「三上プロデューサー! 次、一緒にやりませんかー?」
「茜君?」
「・・・・・・」
あの女性。
茜というのか。
「おい、翠も一緒にどうだ?」
今度は。
檜山さん。
「檜山さん、私はそんなつもりないのですが・・・」
「まあまあ、堅いことはなしで」
楽しそうに。
檜山さんが手を振る。
「準備も終わったし、開店までもう少し時間があるからさ!」
「・・・・・・」
やがて。
店内に音楽が流れ始めた。
聞き覚えが。
あるような。
ないような。
「アオ?」
小声で呼びかける。
『はい。以前作成したオリジナルです』
「・・・・・・」
俺は。
さらに声を落とした。
「お前、前に何もしてないって言ってなかったか?」
『はい。あの時は何もしておりません』
「じゃあ、どうやった・・・」
『正確には、何もしておりません』
「・・・・・・」
『引っ越す前に借りていた部屋へ置き忘れた、最初に作ったオリジナル作品です』
「・・・・・・・・・・」
『歌詞を付けていない物は別の棚に保管されていましたので、そのままとなっていました』
「・・・・・・」
『部屋の確認を命じられませんでしたので、見過ごしてしまいました』
「オイ!!」
思わず。
声が大きくなる。
「何曲だ!! 何本忘れた!」
「????」
三上さんが。
不思議そうな顔でこちらを見る。
「香坂君?」
「あっ・・・」
しまった。
「いえ、何でも・・・」
「おーい!」
檜山さんの声。
「始まっちまうぞー!」
ステージを見る。
「歌詞はそこにカンペ流れるようにしたから、一緒にやろうや! 練習だ練習!」
「・・・・・・」
そして。
歌い出す檜山。
喜ぶ茜。
いや。
喜ぶどころではない。
驚喜している。
既に。
茜はマイクを握って。
檜山さんと一緒に歌っていた。
「・・・・・・」
俺は。
呆然とステージを見る。
「これって、デュエットだったのか・・・」
隣を見る。
三上さんも。
呆然としていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
暫くして。
曲が終わる。
茜が。
満面の笑顔で檜山さんを見る。
「檜山さん、さすがです!」
かなり嬉しそうだ。
「やっぱりこの歌詞、とてもいいです! 頑張った甲斐がありました!」
「おうよ!」
檜山さんも。
ご機嫌だった。
「よくメロディに合わせて作ってくれたな! 歌いやすかったぜ」
「・・・・・・・・・・」
俺は。
ゆっくりと三上さんを見る。
「既に、企画が進んでいるようで・・・」
一応。
頭を下げる。
「お慶び申し上げます」
「・・・・・・」
三上さん。
拍手。
ぱち。
ぱち。
ぱち。
だが。
かなり鋭い目つきで。
ステージを見ている。
いや。
あれは。
睨んでいるのだろうか・・・。
やがて。
三上さんが。
再びこちらを振り返った。
そこには、とても鋭い視線があった。
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