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妄想の歌姫を紹介しろと迫られても困る  作者: kawauso2017
第1部

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第19話 敏腕ディレクター三上

 三上は、ようやく安堵していた。


 ついに。


 Suiなる人物と、会うことができる。


 店の入口近く。


 その人物が現れるのを待ちながら。


 三上は、ほんの少しだけ口元を緩めた。


 その後ろ。


 少し間を空けたところから。


 木崎青年も、こちらの様子を覗いている。


 どうやら。


 約束通り。


 余計なことは言わずにいてくれるらしい。


 三上は。


 内心。


 にやりとした。


 ここまで長かった。


 だが。


 ようやく。


 ここからだ。



◇



 スーツ姿。


 客には見えない。


「香坂翠さん?」


「あー。そうですけど?」


「初めまして。東都ミュージックの三上と申します」


 名刺を差し出された。


「……はあ」


 受け取る。


 知らない。


 未来でも関わっていない……。少なくとも。


 俺の記憶にはない会社だった。


 東都ミュージック。


 三上。


 名刺を見ても。


 何も思い出さない。


「それで……」


 三上と名乗った男は。


 持っていた鞄へ手を入れた。


 そして。


 何かを取り出す。



 カセットテープ。



「・・・・・・」



 やべぇ……。


 嫌な予感がした。


 嫌な汗が止まらない。


「このテープ、ご存じですよね?」


「ご存じ上げてございませんが……」


 自分でも。


 ずいぶん不自然な敬語が出たと思う。


 だが。


 仕方がない。


 ラベルの字が俺の書いたものだったら。まだ分かりやすかった。


 違う。


 見たこともないカセット。


 ただ。


 そこには。


 Sui 1990/10


 そして。


 赤字で。



『おっさん』



 とだけ書かれていた。


「……それが何か?」


 三上は。


 少しだけ。


 こちらの表情を観察していた。


 そして。


 カセットを再生する。



 げっ。


 やっぱり……。


 再生機から曲とともに歌声が流れてきた。


 かなり動揺してしまった。


 冷や汗とともに。


 挙動不審になっていたのかもしれない。



◇



 三上は焦っていた。


 違う。


 これじゃない。


 思わず。


 おっさんのテープを再生していた。


 再生機から流れる。


 あの。


 渋いおっさんの声。


「・・・・・・」


 冷や汗が止まらない。


 何故。


 よりにもよって。


 これを持ってきた。


 ふと。


 店の奥を見る。


 最初に案内してくれた。


 店長らしき男が。


 こちらを覗いていた。


 腕を組み。


 ぶっきらぼうな顔で。


 じっと。


 こちらを見ている。


「・・・・・・」


 三上は。


 少しだけ。


 冷静さを取り戻した。


 いや。


 取り戻したつもりだった。


 震えそうになる声を抑える。


「やっぱり、香坂さんのところから出た音源なんですね」


そして、動揺していたのであろう、香坂と名乗る青年ではなく、


その後ろの木崎、そして店長を注視してしまっていた。



◇



「……知らない曲ですね。新曲……?」


 とぼける。


 三上は。


 少しだけ笑った。


「何人か経由してますよ」


「はあ」


「最初は、若い子から回ってきたそうです」


「・・・・・・」


 その時。


 三上の視線がに、ふと気づく。


 俺の後を向いていた。


 何だ。


 振り返る。


 木崎。


 ニコニコしていた。


「・・・・・・」


 お前。


 何してんだ。


 しかも。


 その少し後ろ。


 檜山さんまで。


 ぶっきらぼうな顔で。


 こちらを覗いていた。


「・・・・・・」


 なんだ、この状況。



◇



 三上は。


 内心。かなり焦っていた。


 持ってきたテープが違う。


 よりにもよって。


 また。


 おっさん。


(くそっ……)


 ここに来て。


 また呪詛か。


 しかも。


 香坂翠の後ろでは。


 木崎青年が笑っている。


 店の奥からは。


 店長らしき男まで。


 こちらを見ている。


 まずい。


 このままでは。


 完全に。


 変な男だ。


 三上は。


 一度。


 呼吸を整えた。



「今日は、ご挨拶までにしておきます」


 なるべく。


 平静を装う。



「また後日、お伺いします」


「あ、はい」


 それだけ言って。


 三上は。


 逃げるように店を出た。

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― 新着の感想 ―
 数あるタイムリープ・タイムスリップ物の中でオンリーワンの話を上手く書けていると思います。ところで、ぜひ主人公には「謎の作詞作曲家Suiの代理人(マネージャー)」的な活躍を期待しています。今までの「暇…
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