第19話 敏腕ディレクター三上
三上は、ようやく安堵していた。
ついに。
Suiなる人物と、会うことができる。
店の入口近く。
その人物が現れるのを待ちながら。
三上は、ほんの少しだけ口元を緩めた。
その後ろ。
少し間を空けたところから。
木崎青年も、こちらの様子を覗いている。
どうやら。
約束通り。
余計なことは言わずにいてくれるらしい。
三上は。
内心。
にやりとした。
ここまで長かった。
だが。
ようやく。
ここからだ。
◇
スーツ姿。
客には見えない。
「香坂翠さん?」
「あー。そうですけど?」
「初めまして。東都ミュージックの三上と申します」
名刺を差し出された。
「……はあ」
受け取る。
知らない。
未来でも関わっていない……。少なくとも。
俺の記憶にはない会社だった。
東都ミュージック。
三上。
名刺を見ても。
何も思い出さない。
「それで……」
三上と名乗った男は。
持っていた鞄へ手を入れた。
そして。
何かを取り出す。
カセットテープ。
「・・・・・・」
やべぇ……。
嫌な予感がした。
嫌な汗が止まらない。
「このテープ、ご存じですよね?」
「ご存じ上げてございませんが……」
自分でも。
ずいぶん不自然な敬語が出たと思う。
だが。
仕方がない。
ラベルの字が俺の書いたものだったら。まだ分かりやすかった。
違う。
見たこともないカセット。
ただ。
そこには。
Sui 1990/10
そして。
赤字で。
『おっさん』
とだけ書かれていた。
「……それが何か?」
三上は。
少しだけ。
こちらの表情を観察していた。
そして。
カセットを再生する。
げっ。
やっぱり……。
再生機から曲とともに歌声が流れてきた。
かなり動揺してしまった。
冷や汗とともに。
挙動不審になっていたのかもしれない。
◇
三上は焦っていた。
違う。
これじゃない。
思わず。
おっさんのテープを再生していた。
再生機から流れる。
あの。
渋いおっさんの声。
「・・・・・・」
冷や汗が止まらない。
何故。
よりにもよって。
これを持ってきた。
ふと。
店の奥を見る。
最初に案内してくれた。
店長らしき男が。
こちらを覗いていた。
腕を組み。
ぶっきらぼうな顔で。
じっと。
こちらを見ている。
「・・・・・・」
三上は。
少しだけ。
冷静さを取り戻した。
いや。
取り戻したつもりだった。
震えそうになる声を抑える。
「やっぱり、香坂さんのところから出た音源なんですね」
そして、動揺していたのであろう、香坂と名乗る青年ではなく、
その後ろの木崎、そして店長を注視してしまっていた。
◇
「……知らない曲ですね。新曲……?」
とぼける。
三上は。
少しだけ笑った。
「何人か経由してますよ」
「はあ」
「最初は、若い子から回ってきたそうです」
「・・・・・・」
その時。
三上の視線がに、ふと気づく。
俺の後を向いていた。
何だ。
振り返る。
木崎。
ニコニコしていた。
「・・・・・・」
お前。
何してんだ。
しかも。
その少し後ろ。
檜山さんまで。
ぶっきらぼうな顔で。
こちらを覗いていた。
「・・・・・・」
なんだ、この状況。
◇
三上は。
内心。かなり焦っていた。
持ってきたテープが違う。
よりにもよって。
また。
おっさん。
(くそっ……)
ここに来て。
また呪詛か。
しかも。
香坂翠の後ろでは。
木崎青年が笑っている。
店の奥からは。
店長らしき男まで。
こちらを見ている。
まずい。
このままでは。
完全に。
変な男だ。
三上は。
一度。
呼吸を整えた。
「今日は、ご挨拶までにしておきます」
なるべく。
平静を装う。
「また後日、お伺いします」
「あ、はい」
それだけ言って。
三上は。
逃げるように店を出た。
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