第18話 訪れる変化、そして・・・
翠は、日々を満喫していた。
いや。
満喫というより。
すっかり、この時代の生活に馴染んでしまった。
今や趣味となった、電気街の散策。
そして。
アオとの楽曲作成。
いまとなっては、ほとんどオリジナルである。
まあ。
完全なオリジナルと言っても。
未来で聞いたようなフレーズが、どこかに混ざらないことも無い。
そこはほら。
影響を受けるものだし。
仕方が無い。
そう割り切っていた。
そもそも。
自分が未来で聞いた曲だって。
そのさらに前の音楽から、何かしら影響を受けていたはずだ。
「まあ、全部完全新規なんて無理だろ」
『開き直りましたね』
「言い方」
それでも。
曲作りは楽しかった。
歌詞を考え。
アオに投げ。
何度も注文を付け。
編曲を変え。
声を変え。
また聞き直す。
気が付けば。
そんな時間が、当たり前になっていた。
◇
仕事も順調だった。
仕入れ。
予約の采配。
店内の確認。
時々。
路上での呼び込み。
呼び込みについては。
最近は、俺の後に入ってきた子へ任せることが増えていた。
もちろん。ただ放り出したわけではない。
できうる限りの知識と。
リスク管理を。
きっちり伝授して。
「この辺りは、あっちの店と揉めやすいから避けろ」
「酔ってる客には深追いするな」
「迷ったら一度戻れ」
「何かあったら先に店へ連絡しろ」
我ながら。
何の仕事をしているんだろう。
当然。
トラブルも起こる。
酔っ払った客。
ごねる客。
金のことで揉める客。
言い掛かりをつける客。
だが。
どれも。
元の俺と同年代か。
それ以下である。
特に問題は無い。
怒鳴られても。
凄まれても。
五十年以上生きていれば。
大抵のことは。
「ああ、そういう人ね」
で終わる。そつなく。
あとは、お帰り戴くだけであった。
◇
店長??
知らない。
ステージで歌っている。
何故か。
遊びで作った、おっさん声のテープを。
木崎から聞かされてから。
何かがおかしくなった。
しかも。
何故か固定ファンが付いていた。
最近、よく来ている。
最前列に一人陣取って。
熱い視線を送っている。
時々。
ガヤすら入れている。
「・・・・・・アレは一体」
いや。
それより店長だ。
なんであいつは。
店のことを、ほとんど俺に任せているのだろう。
確かに。
給与は増えた。
もう少し広い部屋に引っ越しても良いほどには。
「そうだ。憧れのパソコン買おうか・・・」
懐かしい。
あれ、よく遊んだんだよなぁ・・・。
「・・・・・・」
いや。
違う。
今は店長の話だ。
檜山さん。
歌が。
やけに上手い。
確かに。
アオが最初におっさん声版を作った時。
店長の声色を参考にして編曲していた。
だが。
ここまで合うものなのか?
最初にテープを聞かされた時の檜山さんも。
「・・・・・・あれ?」
「俺、いつこんなの録音した?」
とか。
本気で首を傾げていた気がする。
それ以来。
木崎と何やら練習を始め。
数ヶ月前からは。
普段あまり使われていなかった店の小さなステージまで。
普通に使うようになってしまった。
しかも。
いつの間にか。
バック用の音源まで用意されている。
どこかのクラブで。
伴奏だけを録音してきたらしい。
完全に。
カラオケ用に。
「・・・・・・」
嫌な予感がした。
「アオ」
『はい』
「お前、作ってないだろうな」
『そのような事実は確認されておりません』
「その言い方、怪しいんだよ」
『事実です』
「ほんとかよ・・・」
それと。
もう一つ。
いつも来る。
あの女の子。
最初は。
最前列でガヤを入れているだけだった。
それが最近。
時々。
おっさんと一緒に歌っている。
「・・・・・・」
何がどうして。
こうなった。
「ホントに働け店長」
ステージの方から。
楽しそうな歌声が聞こえてくる。
店長は。
今日も元気だった。
◇
そんな日々が。
しばらく続いた。
そして。
ある日。
「翠。お前に客」
開店準備をしていた俺に。
檜山さんが声を掛けた。
「俺に?」
「そう」
「知り合い?」
「らしいぞ」
「誰の?」
「知らん」
「俺の知り合いじゃないじゃないですか」
「まあ、行ってみろ」
「なんで店長が雑なんだよ・・・」
仕方なく。
店の入口へ向かう。
まだ開店前。
店内には。
準備中の物音だけが響いている。
入口。
そこに。
一人の男が立っていた。
三十代くらい。
身なりは整っている。
この店の客には。
あまり見えない。
営業。
あるいは。
どこかの会社員。
そんな雰囲気。
だが。
男は。
こちらを見るなり。
まっすぐ視線を向けてきた。
「・・・・・・」
誰だ。
三十代くらいの男が立っていた。
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