第15話 信じられない勘違い
数ヶ月後・・・。
今日も営業。
将来のアイドルを探して、三上はあちこちへ足を運ぶ。
小さなオフィス。
雑居ビルの一室。
はたまた、夜のバー。
売れそうな人間がいれば話を聞き。
面白そうな噂があれば耳を傾ける。
そんなある日。
とあるバーの片隅で。
「三上さん、これ聞きました?」
知り合いの業界関係者が、一本のカセットテープを差し出してきた。
「最近、噂になってましてね。みんな歌ってる歌い手を探すのに必死なんですよ。テープの出所もよく分からないんです」
「へえ・・・」
三上は何気なく、そのテープを見る。
そこには。
Sui 1990/10
「…………」
三上は愕然とした。
何故か。
鳥肌が収まらない。
「あっ・・・あ・・・このテープは?」
「知ってるんですか?」
「いや、その・・・」
「今、結構話題ですよ?」
相手は楽しそうに続ける。
「かなりダビングされてるみたいで。おそらく業界関係者は、みんな歌い手を探してるんじゃないですかね」
「・・・・・・」
「三上さんのところは、対象外の案件?」
「いやあ、これ、うん、聞いたよ」
三上は視線を逸らす。
「ただねぇ、ちょっとうちの社風には・・・うん・・・」
歯切れが悪い。
「そうでしたか」
相手は首を傾げた。
「透き通るような歌声で、なんとも言えないリズム。なんか時代を先取りしてますよね」
「・・・・・・」
「先取り感が駄目でしたか?」
「いや、曲はいいんだ」
三上は即答した。
「曲は、とても気に入ってはいてね。うん・・・」
そこで。
少し引っ掛かった。
「・・・・・・透き通った声?」
「え?」
「いや・・・」
三上の頭の中に。
低く。
渋く。
妙に味のある。
あのおっさんの声が蘇る。
「いま、あんな渋いのが流行になっているのか?」
「渋い?」
「いや、何でもない」
三上は混乱していた。
世間の流行って・・・。
私は何をしていたんだ・・・。
「まあ、斬新ですからね」
相手は話を続ける。
「この歌い手と作曲家。ただ、うちに回ってきたテープは残念ながら、かなりダビングされていて劣化してるんですよ」
「ああ・・・」
「もし三上さんのところで、劣化の少ないものをお持ちでしたら、お貸し願いたいんですが」
「あぁ・・・うん、分かった」
三上は記憶を辿る。
「確か事務所に隔離していたはずだから、戻ったら確認するよ」
「助かります」
相手は嬉しそうにグラスを持ち上げた。
三上は。
何とも言えない顔で。
そのテープをもう一度見つめていた。
◇
事務所。
「はぁ・・・」
三上は自分の机へ戻り、大きく息を吐いた。
「うちの事務所も焼きがまわったのか?」
ミリオンも出した事務所だぞ・・・。
「ディレクター業、失敗かぁ・・・」
あんなおっさんに。
世間は夢中。
「いや、曲はいいんだよ・・・曲は・・・」
自分に言い聞かせる。
「でも、おっさんなんだよなぁ・・・」
三上はふと、棚へ目を向けた。
数ヶ月前。
そっと隔離したカセットテープ。
一本手に取る。
Sui 1990/10
「これだよな・・・」
レコーダーにセットする。
再生。
テープ特有の、僅かなノイズ。
そして。
流れ始める曲。
「・・・・・・」
相変わらず。
おっさんだ。
「やっぱりおっさんだよな・・・」
しかし。
曲はいい。
もの凄くいい。
数ヶ月前に聞いた時より。
むしろ、さらに良く感じる。
「なんで、この声なんだよ・・・」
トントン。
「失礼します、三上ディレクター」
「ああ」
若い女性社員が、盆を持って入ってきた。
「お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。そちらに」
女性社員は机にお茶を置く。
そして。
レコーダーから流れている曲に気付いた。
「あれ? 今日も曲の確認でしたか?」
「ん?」
「でも今日は、持ち込みありませんでしたが?」
「ああ、いや」
三上は椅子にもたれた。
「ちょっと出先でね」
「はい」
「以前・・・いつだったか。数ヶ月前にここへ持ち込まれたテープが、どうも話題になっていたようでね」
「これですか?」
「ああ」
三上は複雑そうに頷く。
「ちょっと愕然としたよ」
「どうしてです?」
「こんなおっさんが、世間では人気になりそうだっていうんだから・・・」
「・・・・・・」
女性社員が少しだけ首を傾げる。
そして。
しばらく曲を聞いた。
「あら、良い曲じゃないですか」
「そうだろ?」
三上は少し嬉しそうに答える。
だが。
「でもなぁ・・・」
レコーダーを見る。
「おっさんなんだよなぁ、コレ」
「いいと思いますよ?」
「そうか?」
「はい」
女性社員は意外そうでもない。
むしろ。
少し気に入ったようだった。
「じゃあ、君」
三上は棚を指差す。
「そこの棚に入っているの、あげるよ」
「え?」
「持って帰っていいから」
「いいんですか? デモテープじゃ?」
「いいのいいの。もう」
三上は投げやりに手を振った。
「じゃあ・・・ありがとうございます」
女性社員は少し嬉しそうに、棚から一本のテープを取った。
◇
翌日。
「三上さん!!」
勢いよく扉が開いた。
「これ!」
昨日の女性社員が。
一本のカセットテープを握って立っていた。
三上はテープを見る。
「ああ、昨日のね」
昨日渡したものだ。
「もうダビングした?」
「いえ、それより!」
「私はさっき、昨日頼まれたテープを渡してきたところだよ」
三上は満足げに椅子へもたれる。
「聞いてください!」
「ん?」
「これ、おっさんじゃないです!」
「・・・・・・」
三上の動きが止まった。
「女性ボーカルですよ?」
「・・・・・・」
「私、あの渋い声が聞きたかったのですが・・・」
「ん?」
「え?」
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