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妄想の歌姫を紹介しろと迫られても困る  作者: kawauso2017
第1部

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第15話 信じられない勘違い

 数ヶ月後・・・。


 今日も営業。


 将来のアイドルを探して、三上はあちこちへ足を運ぶ。


 小さなオフィス。


 雑居ビルの一室。


 はたまた、夜のバー。


 売れそうな人間がいれば話を聞き。


 面白そうな噂があれば耳を傾ける。


 そんなある日。


 とあるバーの片隅で。


「三上さん、これ聞きました?」


 知り合いの業界関係者が、一本のカセットテープを差し出してきた。


「最近、噂になってましてね。みんな歌ってる歌い手を探すのに必死なんですよ。テープの出所もよく分からないんです」


「へえ・・・」


 三上は何気なく、そのテープを見る。


 そこには。


 Sui 1990/10


「…………」


 三上は愕然とした。


 何故か。


 鳥肌が収まらない。


「あっ・・・あ・・・このテープは?」


「知ってるんですか?」


「いや、その・・・」


「今、結構話題ですよ?」


 相手は楽しそうに続ける。


「かなりダビングされてるみたいで。おそらく業界関係者は、みんな歌い手を探してるんじゃないですかね」


「・・・・・・」


「三上さんのところは、対象外の案件?」


「いやあ、これ、うん、聞いたよ」


 三上は視線を逸らす。


「ただねぇ、ちょっとうちの社風には・・・うん・・・」


 歯切れが悪い。


「そうでしたか」


 相手は首を傾げた。


「透き通るような歌声で、なんとも言えないリズム。なんか時代を先取りしてますよね」


「・・・・・・」


「先取り感が駄目でしたか?」


「いや、曲はいいんだ」


 三上は即答した。


「曲は、とても気に入ってはいてね。うん・・・」


 そこで。


 少し引っ掛かった。


「・・・・・・透き通った声?」


「え?」


「いや・・・」


 三上の頭の中に。


 低く。


 渋く。


 妙に味のある。


 あのおっさんの声が蘇る。


「いま、あんな渋いのが流行になっているのか?」


「渋い?」


「いや、何でもない」


 三上は混乱していた。


 世間の流行って・・・。


 私は何をしていたんだ・・・。


「まあ、斬新ですからね」


 相手は話を続ける。


「この歌い手と作曲家。ただ、うちに回ってきたテープは残念ながら、かなりダビングされていて劣化してるんですよ」


「ああ・・・」


「もし三上さんのところで、劣化の少ないものをお持ちでしたら、お貸し願いたいんですが」


「あぁ・・・うん、分かった」


 三上は記憶を辿る。


「確か事務所に隔離していたはずだから、戻ったら確認するよ」


「助かります」


 相手は嬉しそうにグラスを持ち上げた。


 三上は。


 何とも言えない顔で。


 そのテープをもう一度見つめていた。


◇


 事務所。


「はぁ・・・」


 三上は自分の机へ戻り、大きく息を吐いた。


「うちの事務所も焼きがまわったのか?」


 ミリオンも出した事務所だぞ・・・。


「ディレクター業、失敗かぁ・・・」


 あんなおっさんに。


 世間は夢中。


「いや、曲はいいんだよ・・・曲は・・・」


 自分に言い聞かせる。


「でも、おっさんなんだよなぁ・・・」


 三上はふと、棚へ目を向けた。


 数ヶ月前。


 そっと隔離したカセットテープ。


 一本手に取る。


 Sui 1990/10


「これだよな・・・」


 レコーダーにセットする。


 再生。


 テープ特有の、僅かなノイズ。


 そして。


 流れ始める曲。


「・・・・・・」


 相変わらず。


 おっさんだ。


「やっぱりおっさんだよな・・・」


 しかし。


 曲はいい。


 もの凄くいい。


 数ヶ月前に聞いた時より。


 むしろ、さらに良く感じる。


「なんで、この声なんだよ・・・」


 トントン。


「失礼します、三上ディレクター」


「ああ」


 若い女性社員が、盆を持って入ってきた。


「お茶をお持ちしました」


「ああ、ありがとう。そちらに」


 女性社員は机にお茶を置く。


 そして。


 レコーダーから流れている曲に気付いた。


「あれ? 今日も曲の確認でしたか?」


「ん?」


「でも今日は、持ち込みありませんでしたが?」


「ああ、いや」


 三上は椅子にもたれた。


「ちょっと出先でね」


「はい」


「以前・・・いつだったか。数ヶ月前にここへ持ち込まれたテープが、どうも話題になっていたようでね」


「これですか?」


「ああ」


 三上は複雑そうに頷く。


「ちょっと愕然としたよ」


「どうしてです?」


「こんなおっさんが、世間では人気になりそうだっていうんだから・・・」


「・・・・・・」


 女性社員が少しだけ首を傾げる。


 そして。


 しばらく曲を聞いた。


「あら、良い曲じゃないですか」


「そうだろ?」


 三上は少し嬉しそうに答える。


 だが。


「でもなぁ・・・」


 レコーダーを見る。


「おっさんなんだよなぁ、コレ」


「いいと思いますよ?」


「そうか?」


「はい」


 女性社員は意外そうでもない。


 むしろ。


 少し気に入ったようだった。


「じゃあ、君」


 三上は棚を指差す。


「そこの棚に入っているの、あげるよ」


「え?」


「持って帰っていいから」


「いいんですか? デモテープじゃ?」


「いいのいいの。もう」


 三上は投げやりに手を振った。


「じゃあ・・・ありがとうございます」


 女性社員は少し嬉しそうに、棚から一本のテープを取った。


◇


 翌日。


「三上さん!!」


 勢いよく扉が開いた。


「これ!」


 昨日の女性社員が。


 一本のカセットテープを握って立っていた。


 三上はテープを見る。


「ああ、昨日のね」


 昨日渡したものだ。


「もうダビングした?」


「いえ、それより!」


「私はさっき、昨日頼まれたテープを渡してきたところだよ」


 三上は満足げに椅子へもたれる。


「聞いてください!」


「ん?」


「これ、おっさんじゃないです!」


「・・・・・・」


 三上の動きが止まった。


「女性ボーカルですよ?」


「・・・・・・」


「私、あの渋い声が聞きたかったのですが・・・」


「ん?」


「え?」



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