第14話 木崎とおっさん・・・・
ある日、木崎祐二は、とある事務所を訪れていた。
以前、今の仕事のつてで、たまたま名刺をもらった事務所だ。
東都ミュージック。
雑居ビルの一室。
扉の横には、会社名の入った小さなプレートが掛かっている。
「すみません、こちらに三上さんっていらっしゃいますか?」
受付にいた女性が顔を上げた。
「はい。どちらさまでしょうか? 本日のアポイントは?」
「いえ・・・」
「すみません、三上は只今外出中でして・・」
「あっ、じゃ、これ渡して貰えませんか?」
木崎は鞄から一本のカセットテープを取り出した。
木崎は翠からダビングしたテープを更にダビングして配っていた。
知り合い。
知り合いの知り合い。
店に来た音楽好き。
少しでも業界に繋がりがありそうな人間。
面白いと思った。
だから聞かせた。
ただ、それだけだった。
「はい、では一応こちらにお名前と連絡先を」
「あ、はい」
木崎は用紙を受け取る。
名前。
連絡先。
そして、少し考えて。
「これ、絶対聞いてくださいね」
「はい。担当に渡しておきます」
「お願いします」
木崎は満足そうに頭を下げ、事務所をあとにした。
数時間後。
外回りを終えた社員が戻り。
机の上には、その日届いた資料や封筒。
そして。
何本ものカセットテープが積み上がっていた。
「三上ディレクター、今日の持ち込みです。また全部聞かれますか?」
「ああ、そちらに置いておいてほしい」
三上は書類から顔を上げる。
「後ほど結果を伝えるよ。またその時に皆で確認になると思う」
「わかりました。ではまたお呼びください」
社員が部屋を出ていく。
静かになった。
三上は、積み上げられたテープを眺めていた。
毎日持ち込まれるテープ。
歌手志望。
バンド。
作曲家志望。
誰かの紹介。
どこかのライブハウスから回ってきたもの。
どれを聴いても同じような作風。
今の流行にのったリズム。
変わりの無い歌詞。
突き抜けてない歌声。
悪くはない。
だが。
良くもない。
「またか・・・」
三上は小さく息を吐いた。
辟易していた。
それでも聞く。
何かあるかもしれない。
一本目。
二本目。
三本目。
何曲目だろうか・・・・。
再生ボタンを押す。
少し籠もった音。
テープ特有のノイズ。
そして。
「・・・・何だこれは・・・」
三上の手が止まった。
「こんなの初めてだ」
曲はいい。
いや。
かなりいい。
耳に残る。
今流行っているものとは少し違う。
それなのに、古臭くもない。
むしろ。
妙に新しい。
三上は雷に打たれたような衝撃が走っていた。
そして。
歌声。
「なんでこんなアイドルが歌うような曲をおっさんがっ!!」
思わず声が出た。
低い。
渋い。
どう聞いても若い女ではない。
曲と声が。
全く合っていない。
なのに。
妙に完成している。
「ありえん」
もう一度聞く。
「こんなの認められない」
巻き戻す。
再生。
「世に出てはいけない作品だ」
曲が悪いわけではない。
むしろ逆だ。
良すぎる。
だから余計に。
「なんでおっさんなんだ・・・」
三上は頭を抱えた。
ふと。
カセットを裏返す。
そこには。
Sui 1990/10
たったそれだけだった。
「・・・・Sui?」
作者名か。
歌手名か。
グループ名か。
何も分からない。
思わず二度見してしまった。
そして。
テープの山。
「・・・・ん?」
同じ名前のテープが数本。
Sui。
Sui。
Sui。
三上の表情が険しくなった。
「これ、まさか全部おっさん!?」
手を伸ばしかける。
止まる。
「だめだ、これはいけない」
三上はそっと。
Suiと書かれたテープを。
テープの山から。
違う棚へ移した。
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