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妄想の歌姫を紹介しろと迫られても困る  作者: kawauso2017
第1部

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第13話 変わらぬ日常と変わりゆく世界

 あれから、木崎には何度かテープを渡してしまった。


 かなり熱心にお願いされて。。。



 ついついやっちまったんだ。



 おっさん声バージョン。



 聞かせるとテンションが上がる上がる!



 もうね、檜山さんと二人で大盛り上がり。



「これ誰だよ!?」


「いや、知らん」


「知らんってなんだよ!」


「知らんものは知らん」


「翠、お前ほんと何なんだよ!」



 俺が聞きたい。



 それでも日常は過ぎていく。



 最初は、アオに未来の曲を検索してもらい、編曲していた。


 しかし最近は、ほぼオリジナル。


 歌詞は俺がなんとなく考え。



 アオが楽曲を付ける。


 俺の注文で編曲する。


 声色を変える。



 もうそれは多岐にわたって。



 気がつけば、棚がカセットだらけになっていた。



「カセットって幅とるよなぁ・・・」



 棚を見る。



 並ぶ。



 並ぶ。



 並ぶ。



「そろそろMDの時代じゃないのかよ、まだか時代!」



『まだです』



「アオ、何とかしてよ」



『削除しますか? そのような軟弱者は磁石を近づければすぐに・・』



「いや、止めろ・・」



 こいつ、たまに怖いことを言う。



「やっぱ、何か他の記憶媒体かんがえないとなぁ・・・」



 PCは買えない。


 買ったとしても、移す手段も保存方法もわからん。



「この時代なんだ? DTM???」



 記憶を辿る。



「あー、当時興味の無かったオレ。無念・・・」



『無念と言われましても』



「未来に戻ったら勉強する」


『戻った後の予定だけ増えていますね』


「うるさい」



◇



 しばらく、仕事は続けていた。


 最初から客引きは上手かった。


 他の誰よりトラブルなく、上客を取れるようになった。



「俺、未来では仕事間違えてたのか?」



 そのうち店の在庫管理まで任されるようになった。



 酒を仕入れる。



 酔っ払いをなだめる。



 揉めそうな客を早めに見つける。



『リスク管理だ。』



 閉店後には在庫確認まで行う。



「おい、店長は誰だ。出てこい檜山!!」



 五十代の中身でやれば、難しい仕事ではない。



「翠、お前ほんとに二十歳か?」


「多分、二十歳ですよ」


「妙に年寄りくせえんだよな」


「店長も二十年したら分かりますよ。苦労してますから」


「お前が言うと妙に説得力あるな」



 檜山さんは、それ以上聞かなかった。



 何か琴線に触れたのだろうか。



 ……いや、琴線で合ってるのか?



 まあ、これ以上俺も聞かれたところで答えようがない。



 頭を疑われるだけだ。



◇



 それから数か月。



 俺は、例の数本のカセットのことをほとんど忘れていた。



 木崎には、あれから何本か渡してしまった。



 ただし。



 それ以外の人間には、自分から聞かせていない。



 木崎にも、しばらく渡すのを自重していた。



 曲作り自体は続けている。



 むしろ、前より増えていた。



 ただし。



 完全に自分用。



 誰かに聞かせるためではない。



 木崎に何本か渡したのも、あいつが妙に食い下がるからだ。



「多分、檜山さんは聞いてないだろうな・・・」



 いや。



 木崎なら、勝手に聞かせていてもおかしくない。



 でも。



 まあいいか。



 その程度にしか考えていなかった。



 仕事の方も順調だった。



 順調というより、気がつけば檜山店長がやるはずの仕事まで、かなり俺に回ってきている。



「在庫、合ってます」


「おう」


「今週、来週と近隣でイベントありますよ。酒の発注、増やした方がいいですよ」


「あー。そうだったっけ……任せる」


「……店長?」


「なんだ?」


「俺、客引きで雇われたんですよね?」


「時給上げたよな? おまえ木崎より時給高いぞ?」


「えっ?」


「えっ? 説明したよな?」



 こんなところで五十代元窓際族の真価が発揮されていたようだ。



 全く気に留めていなかった。



 時給上がった。



 ラッキー。



 その程度にしか考えていなかった。



 住居費もほとんど掛からない。



 遊び歩く趣味もない。



 中身は既におっさん。



 二十歳そこそこの連中に誘われて毎晩飲み歩くほど元気でもない。



 体は妙に元気なのだが、気分がついていかないのだ。



 昔読んでいた異世界転生ものの小説では、体に精神が引っ張られて、精神まで若返るなんて書いてあった。



 嘘だな。



 おっさんが治らねぇ……。



 結果。



 金は貯まった。



 通帳を眺める。



 香坂翠の名前で作ることができた。



 まあ、保証人が必要なら店長に頼むつもりではいたが……。



 八十万円を少し超えている。

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