第12話 電気街とラジカセと録音と・・・
かくして 。
給料日。
「よし」
『何をするのですか』
「ラジカセを買おう」
今度は迷わなかった。
昼過ぎ。
俺は再び電気街へ向かった。
自宅を出たあと、俺は電気街を物色していた。
平日の昼間だというのに、人は多い。
通り沿いの店先にはテレビ、ビデオデッキ、ミニコンポ。
少し奥へ入ればパソコンや無線機、電子部品。
どこからともなく店員の呼び込みが聞こえ、あちこちのスピーカーから別々の音楽が流れている。
やっぱり、この時代の電気街は騒がしい。
「懐かしいなぁ・・・・」
店頭に並んだラジカセを見る。
大きなスピーカー。
ごつい取っ手。
ボタンがずらり。
子どもの頃、こんなの使ってたな。
そして。
「分解して戻せなくなって、怒られたんだよなぁ・・・・」
何故、子どもというものは分解したくなるのだろう。
俺だけかもしれない。
「実家にまだあるかな・・・・」
いや。
三十年以上先の話だ。
とっくに捨てられている気もする。
歩いていると、見覚えのある看板が目に入った。
「お。Bit-INNだ」
懐かしい。
ラジオ会館。
NEC。
俺の青春そのものと言ってもいい。
「・・・・いや、ここにはラジカセないな」
目的を思い出す。
今日はパソコンを見に来たわけではない。
さらに歩く。
「石○電気か」
ここならあるだろう。
店へ入る。
オーディオ売り場を見ながら、しばらく物色する。
その途中。
「・・・・おお」
足が止まった。
「わが青春のPC-9801RA21・・・・」
思わず近寄る。
懐かしい。
『これは、またレトロな機器ですね、これで音楽制作を?』
本当に懐かしい。
「いや、これで音楽するには更に色んな機材が必要なのさ。とてもじゃないけど手が出ないよ。」
『では不要ですね。』
「・・・・・・」
「親に無理言って買ってもらったんだよなぁ・・・・」
『スネかじりというヤツですね。今の給与でも買えないようですが・・・』
「・・・・・・・」
田舎だった。
近所にこんな機械を売っている店なんてない。
だから通信販売。
もちろんネット通販なんてものはない。
雑誌の広告欄を見て。
電話して。
注文して。
確か銀行振込だったか。
「振込確認で、ちゃんと電話きたのにはほっとしたなぁ、あとは、ちゃんと届くのか、ものすごく怖かった記憶あるな・・・・」
今考えれば笑える。
だが、当時は学生だったからなぁ、何かの交換条件に買って貰ったな。
親にとっても大金だったはずだ。当然今の俺にも大金だ・・・
「・・・・ありがたかったな」
しばらく眺める。
「って、違う」
ラジカセだ。
また目的を見失っていた。
オーディオ売り場へ戻る。
「・・・・でけぇ」
目の前に並んでいるラジカセを見る。
「なんだこれ」
横に長い。
スピーカーも大きい。
いかにも音が出ます、と主張している。
「こんなでかいの、確か流行ってたわ・・・・」
筋肉質なタレントが肩に担いで、
パワフル。
高出力。
重低音。
そんな言葉を並べていた記憶がある。
「今思えば、なんて滑稽な・・・・」
いや。
当時は格好良かったんだろう。
たぶん。
問題は値段だった。
「高ぇな・・・・」
思ったより高い。
生活を始めたばかりの俺には、かなり痛い。
できれば、ヘッドホンステレオも欲しい。
「両方は無理だな」
少し考える。
「・・・・待てよ」
別に大きなラジカセじゃなくてもいい。
欲しいのは音楽を聴く環境。
そして。
「録音できればいいんだよな」
なら。
「ヘッドホンステレオだけでいいか?」
売り場を探す。
再生専用。
ラジオ付き。
録音機能付き。
色々ある。
「お」
録音できる。
ラジオも付いている。
値札を見る。
「三万・・・・」
高い。
だが。
ラジカセとヘッドホンステレオを別々に買うよりはマシだ。
「よし」
決めた。
録音機能付きのヘッドホンステレオを持って、レジへ向かう。
途中で足を止めた。
「・・・・マイクも買うか」
内蔵マイクでも録音はできる。
でも。
「ノイズ拾うだろうしなぁ・・・・」
どうせなら少しでもマシな方がいい。
アクセサリー売り場を見る。
「外部マイク・・・・」
いくつか手に取る。
「これでいいか」
ケーブル。
マイク。
カセットテープ。
必要そうな物を一通り籠へ入れる。
帰宅後、早速
何本か録音しているうちに、ふとカセットの上部が目に入った。
「そういや・・・・」
ケースの穴を眺める。
「これ、確かここ穴開けたらハイポジとかメタル扱いになるんじゃなかったっけ?」
『認識だけなら、その可能性はあります』
「ほら!」
『ただし、テープそのものの特性は変わりません』
「・・・・え?」
『ノーマルテープをハイポジ、あるいはメタルとして誤認識させても、適正なバイアス条件から外れます。音質改善にはなりません』
「マジで?」
『むしろ特性が破綻し、音質が悪化する可能性があります』
「・・・・都市伝説だったのか」
『おそらく、別の話と混同されています』
「別の?」
『メタルテープなどを異なるポジション設定で使用し、高域特性の変化を狙う類の話ではないでしょうか』
「・・・・ああ」
なんとなく記憶の奥に引っかかる。
「逆だったか?」
『その可能性が高いです』
「昔、絶対やってた奴いたぞ」
『いたことと、正しいことは別です』
「ぐぬぬ・・・・」
『安心してください』
「何を?」
『年齢を重ねると、記憶は曖昧になるものです』
「慰めになってねえよ!」
『事実です』
「お前ほんと最近口悪くなったな!」
そんなやり取りが、いつの間にか日課になった。
仕事が終わる。
曲を作る。
気に入らなければ直す。
別の声で歌わせる。
また直す。
誰かに聞かせるために作っていたわけではない。
ただ面白かったのだ。
カセットのラベルには日付だけを書いた。
自己満足。
しばらくはそれで充実していた。
後に。
木崎に渡した、あの一本のカセットが。
まさか後になって、見たこともない男の手に渡り、俺の前に戻ってくることになるとは。
この時の俺は、まだ知らなかった。
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