↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想の歌姫を紹介しろと迫られても困る  作者: kawauso2017
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/17

第11話 何気ない自慢、そして引っ越し・・・

 数日後。


 仕事仲間の木崎祐二が、休憩中に暇そうにしていた。


 普段から店で流れる曲に妙に詳しく、カラオケも上手い。


 俺は何となく、鞄に入れっぱなしだったカセットを取り出しカラオケセットへテープを入れた。


「木崎」


「ん?」


「これどうよ?」


「何? 最新モデルか?」


「いや、中身。聞いてみ」


 イヤホンを付けさせて、再生ボタンを押す。


 例の女性ボーカルが流れ始めた。


 木崎は最初、軽い顔で聞いていた。


 だが途中から黙った。


 サビまで聞いて、巻き戻す。


 もう一度聞く。


「……翠」


「ん?」


「これ誰?」


「どうよ?」


「いや、曲もだけど」


 木崎がヘッドホンステレオを指さした。


「誰だよ、この女」



「…………」


 そこで初めて気づいた。


 考えていなかった。


 歌っている人間なんていない。


 アオに声を作らせただけだ。


 正直に言う?


 未来から持ってきたスマートフォンのAIが編曲して、AIが未だデビューしていない歌手の声をまねて歌っています。


 AIって言っても普通には通じない。歌手名か何かだと思われるだけだ。


 うん。


 無理だ。


「……知人だ」


 口が勝手に動いた。


「へえ! 歌手?」


「いや」


「じゃあアマチュア?」


「まあ……そんな感じ」


「名前は?」


「知人だ……」


「いや、名前!」


「秘密だ」


「なんで?」


「同意が取れていない。リスク管理だ」


 我ながら、ひどい。


 全部その場で作った。


 だが木崎は諦めない。


「これ、ダビングしていい?」


 木崎が、妙に食い気味で言った。


「は?」


「いいだろ。俺も聞きたいし、聞かせたし」


 さっきからこいつは、歌ってる奴を紹介しろだの、絶対売れるだの、勢いだけはやたらある。


 正直、少し面倒になっていた。


 ヘッドセットから突然・・


『問題ないと思います。ただ――』


「ならいいか」


『……』


「ん?」


『いえ』


 俺は木崎へカセットを渡した。


「ほら」


「マジ? ありがと!」


 木崎は嬉しそうに受け取る。


 その顔を見て、俺もそれ以上は気にしなかった。


 後になって思えば。


 あの時、アオが続けようとした言葉くらい、ちゃんと聞いておくべきだったのだ。


 そんな、ごく当たり前の話を。


 ――我ながら、リスク管理が雑になっていた。


 

 

 それから、数ヶ月、翠はアオと曲の合成を行ったり、電気街を物色して日常を過ごしていた。


 閉店後、翠はセッセとテープにダビングを繰り返していた。


 合成を始めた当初は数曲、元々聞いていた曲をアレンジしたり、そのまま歌詞や曲調をつかっていたが、その内、ほぼオリジナルを作り始めていた。


 オリジナルと言っても、ほぼアオが注文通りの曲調を作ってくれるのだが・・



「アオ、やっぱそろそろ、引っ越そうと思うんだ、部屋も荷物で手狭でカセットだらけになっているし」


『不要なカセットは廃棄すれば良いのでは無いでしょうか?そのような軟弱者は強力磁石を近づければ一発ですが』


 うん、引っ越すわ。


◇


 翌日。


 檜山さんに断って、朝からアパートを探すことにした。


 なんとありがたいことに。


「おまえ、家出なら保証人いないだろ。俺の名前使っとけ。決まったら店に呼べ、保証人欄うめてやる」


「……いいんです?」


「公園で寝られるよりマシだ」


 ありがたい。


 そう。


 俺はいまだに家出人なのだ。


 三十数年後の時代から・・・・。


「戻れないんだろうなぁ・・・・」


 理不尽じゃね?


 やるならもっと派手にして欲しかった。


 光る魔法陣。


 女神。


 異世界。


 異能。


 俺のファンタジーどこ行った。


 なんで若返っただけで、変な記憶まで消えてるんだよ・・・・。


戻りたい?


 自答する。


 少し考える。


「・・・・いや、面倒だな」


 うん。


 とても。


『如何しました?』


「窓際面倒」


 我ながら酷い。


『では、日当たりの悪い物件を探しましょう』


「・・・・・・」


 何件か回った。


 条件は単純だ。


 できるだけ店から近い。


 そして、限りなく安い。


 何しろ時代が時代だ。


 バブル真っ只中。


 絶対に地価高騰で家賃も馬鹿高いと思っていた。



 違った。



「二〇二六年も十分高かったわ・・・・」


『未来でも都市部の家賃は十分高額です。極端な差ではありません』


 結局。


 古いが、風呂とトイレの付いた部屋を借りることができた。


「五代君ルート回避!」


『意味が分かりません』


「分からなくていい」


 管理人さんもいないけどな。


 少し残念・・・・。



 早速、店へ戻り檜山さんに確認を取る。


 今の月給でも、何とか生活はできそうだった。


「決まったか」


「はい。古いですけど」


「十分だろ」


 檜山さんも、どこか安堵しているようだった。


 話を聞けば、最近は以前より客入りが増えているらしい。


 酒やら備品やら。


 俺が寝泊まりしていた一室まで使えれば、在庫を置く場所にも困らなくなる。


「俺、邪魔だったんですね」


「今さら気づいたのか」


「酷い」


「今まで置いてやっただろ」


 何も言えない。



◇


 そんなこともあって、一週間。


 ついに引っ越しが終わった。



 といっても。


 何もない。


 持っていた服。


 鞄。


 その他少々。


 あとはスーパーで買った食材。


 中古で買った電子レンジ。


 洗濯機。


 冷蔵庫。


 部屋の中は驚くほど殺風景だった。


「いやー・・・・中古店なかったら無理だったわ」


 今月、ギリギリいけるか?


 財布の中身を確認する。


「せめてテレビでも・・・・」


 少し考える。


「いや、やめとこう」


『何故ですか』


「N○Kが怖い」


『受信料ですか』


「そう。絶対集金来るぞ」


 大家とつるんでるんじゃないだろうな・・・・。


 偏見である。


 たぶん。


 まあいい。


 テレビがなくても困らない。

↓の【☆☆☆☆☆ → ★★★★★】や【ブクマ】で、著者の妄想がブースト出来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。