航空母艦「スペクトル」
ハーゼン救出の翌日、航空隊は再びブリーフィングルームへ集められた。
前回の出撃前までの、寄せ集めの部隊らしい距離は薄れていた。
戦闘中隊は救出飛行艇の搭乗員へ席を空け、実験飛行中隊の整備員も同じ卓を囲んでいる。
一度の救出で全員が仲間になったわけではない。
それでも、誰が空を守り、誰が海へ降り、誰が帰還を待つのかは互いに分かっていた。
艦長が正面の幕を上げる。
「次の任務を説明する。
その前に、この艦と航空隊の役割を確認しておく」
航空母艦スペクトル。
旧式艦の船体へ全通飛行甲板を載せ、航空機を主兵装に作り替えた、エスティマ所属の実験艦である。
新造艦ではない。
だが航空母艦という艦種自体が新しく、海軍上層部にも正しい使い方を知る者は少なかった。
スペクトルの任務は、航空戦力の有用性を実戦で示すこと。
それだけではない。
「本艦はゼア沿岸防空圏へ浸透し、内地への打撃経路を開く」
壁面にゼア沿岸部の地図が映る。
艦内の航空戦力は、大きく三つに分かれていた。
ハーゼンが所属する実戦経験豊富な戦闘中隊。
近距離誘導弾「白槍」をはじめ、試作兵器の実戦データを集める実験飛行中隊。
そして飛行艇を保有し、海上へ降りた搭乗員を収容する救出部隊。
「戦闘中隊が敵を押さえ、実験飛行中隊が兵器と防空網を調べ、救出部隊が帰路を保証する。
この三隊を、一つの艦から継続して運用できるかを試す」
本隊隊長のテフ・ブラウン大尉が地図を見た。
「敵本土を攻撃しながら、艦種の試験も続けるのですか」
「逆だ。
実戦で使えない艦なら、試験に成功しても意味がない」
スペクトルに求められているのは、単純な爆撃ではなかった。
敵の索敵範囲、迎撃時間、誘導兵器、基地間通信を、攻撃を通じて露出させる。
事実上の強行偵察である。
反撃されることを前提に敵地へ踏み込み、その反撃の形を持ち帰る。
偵察という穏当な言葉に対し、任務の中身は穏当ではない。
艦長は沿岸沖の一点を示した。
海の上に、都市ほどの人工構造物が描かれている。
「最初の目標は、ゼアの海上採掘施設。
通称メガフロートだ」




