惑星の歴史と天然ECM
歴史です
この惑星の地殻と海底には、磁性鉱物が広く分布している。
海水にも多様な鉱物・金属成分が溶け込み、沿岸では古くから、それらを分離し、濃縮し、精製する産業が発達した。
重元素がなぜこれほど豊富なのかは、まだ完全には解明されていない。
現在有力なのは、この惑星を含む宙域が、過去に大質量星の形成と超新星爆発を繰り返した物質から生まれたという説である。
豊かな資源は、あらゆる土地に同じ価値を与えたわけではない。
採掘しやすい鉱床、海水から効率よく成分を取り出せる沿岸、精錬に必要な電力と水を確保できる地域には都市と工業が集まった。
一方で、鉱物資源に乏しい半島や島は、大国が直接領有する利益の薄い緩衝地として扱われることもあった。
原料が豊富だっただけでもない。
海水から必要な成分を取り出すには、濾過、分離、耐食、精密計測の技術が要る。
そこから金属産業と精密加工が発達し、後の航空技術を支える工業基盤になった。
しかし、豊かさは争いをなくさなかった。
大量に得られる金属と、特定の場所でしか採れない希少金属では価値が違う。
新しい鉱床の発見は、辺境を一夜で工業地帯候補に変え、古い国境、採掘権、住民の帰属を再び問題にする。
この世界の戦争は、資源が足りないから始まるとは限らない。
資源を使える技術と、その利益を誰が支配するかを巡って始まる。
**
この惑星では、電波は目に見えない地形のように歪む。
海底と地殻に大量の磁性鉱物があり、惑星そのものの磁場も強く、不均一である。
そこへ火山帯、オーロラ、恒星風の影響が重なる。
通信は突然混線し、遠距離では急激に弱まり、レーダーには海面や地形の反射が重なる。
実在しない目標が移動し、消えたはずの反応が残響として現れることさえある。
高緯度でなくてもオーロラが見られる。
色、広がり、明滅の周期から磁気嵐を予測する専門家が存在し、通信状態のよい地域は港や水源と同じ戦略資源として扱われる。
そうした場所には観測所や中継施設が置かれ、やがて要塞化される。
この環境は無線技術の発達を遅らせなかった。
むしろ逆だった。
船舶通信、気象観測、オーロラ予報、鉱床探査を成立させるため、人々は早くから周波数切り替え、信号の反復、誤り訂正、複数地点での照合を必要とした。
強い電波を出すだけではなく、雑音の中から本物の信号を拾う技術が育った。
後にECCM――電子妨害除去技術――と呼ばれるものが、意図的な電子妨害であるECMより先に発達したのである。
大型レーダーの探知距離は百キロ級に達することもある。
ただし、遠くの反応から分かるのは、何かがいるらしいという兆候、方角、概算距離、高度、接近速度、編隊らしいかどうかまでだ。
敵味方や攻撃の可否を、一つの反射だけで決めることはできない。
そのため航空隊は、赤外線による受動探知、複数レーダー、敵味方識別装置であるIFF、無線、航跡、飛行士名鑑、機体標章、最後には目視を組み合わせる。
一つの高性能装置を信じるのではなく、性質の違う不完全な情報を重ねることが、この世界の標準的な索敵である。
人工的な妨害も、天然の雑音に紛れる方向へ進歩した。
現在の電子戦で問われるのは、雑音を消せるかだけではない。
その雑音が空と大地の生んだものか、敵が空と大地を装って作ったものかを見抜けるかどうかである。




