「SAM」
レーダー警報が鳴った。
ハーゼンは咄嗟に、無線機の送信スイッチへ指を伸ばした。
特定の一機だけへ強い電波を向ける行為は、空の慣習では電子的な呼びかけにも使われる。
相手が所属を問い、名乗りを求めている。
警報の第一音を聞いた瞬間、身体がそう反応した。
だが、識別情報の照会は来ない。
受動警戒装置が拾っているのは、索敵レーダーの広い走査波ではなかった。
光の乏しい部屋で懐中電灯をまっすぐ当てられるような、細く強い断続波である。
『火器管制レーダーです。
追尾されています!』
メガフロートは目視か光学照準で攻撃隊を捉え、広域索敵を省いて火器管制レーダーを直接向けていた。
この惑星では磁気圏の擾乱が電波へ雑音を重ね、広い範囲を探すレーダーほど遠距離の反応を見失いやすい。
だが、一方向へ集中する火器管制波なら、短い距離に限って雑音を押し切れる。
「全機、散開。
追尾波から距離を取れ。
ハーゼンは発射架とレーダーの間へ入るな」
ほかの機体が左右へ開く。
その直後、メガフロートから細長い弾体が打ち上げられた。
発射直後はまっすぐ上がり、数秒後にハーゼン機へ向きを変える。
弾体の後ろには、光を拾うほど細いケーブルが伸びていた。
『地対空誘導弾。
SAMです!』
実験飛行中隊のアーロン少佐が叫ぶ。
Surface-to-Air Missile。
地上から航空機を狙う誘導弾の総称である。
メガフロートの弾は、発射架側のレーダーが標的を追い、ケーブルを通じて修正命令を送る方式だった。
ハーゼンは海面へ降下した。
誘導弾も機首を下げる。
背後のケーブルが弧を描き、精錬塔の縁へ近づいた。
すでに追尾の中心にいるハーゼンだけは、まっすぐ距離を取っても逃げ切れない。
レーダーとの間へ構造物を挟み、ケーブルを引っかけるほうを選んだ。
弾を避けるだけでは終わらない。
レーダーが追い続け、ケーブルが残る限り、操舵されて再び向かってくる。
ハーゼンは塔の陰を横切った。
ケーブルが鉄骨へ触れ、張り詰める。
火花が走り、誘導弾は修正命令を失った。
弾体は最後に与えられた方向のまま海へ突き刺さった。
『回避確認。
誘導途絶』
別の発射架が起き上がる。
『実験二番、ユアン・リード。
東側から入る』
ハーゼンへ火器管制波を向け続けていたため、レーダーは反対側から低空接近する機体への走査に戻れていなかった。
実験飛行中隊の一機が、精錬塔の陰から飛び出す。
ユアン・リード中尉の機体、その機首で十二・七ミリ機銃が火を噴き、曳光弾がアンテナ基部と露出した導波管を横切った。
火器管制レーダーが横倒しになる。
だが、倒れる直前に追尾波が別の機体を捉えた。
起き上がっていたSAMが発射され、ユアン機へ向きを変える。
『実験二番、追尾された。
離脱する』
ユアンは海面へ降下した。
誘導弾も続く。
ハーゼンが機首を返したとき、損傷したレーダーからの追尾波が途切れた。
命令を失ったSAMはユアン機の後方を通り過ぎた。
そのまま飛び去るはずだった弾体が、海面へ触れる直前に自爆した。
破片が実験二番機の風防と胴体へ突き刺さった。
機体が一度大きく傾き、すぐ水平へ戻る。
『実験二番、被弾。
飛行は可能』
ユアンの声は浅かった。
『腹部に破片。
止血できない』
ハーゼンは実験二番機の横へ並んだ。
風防の内側で、ユアンは片手を傷口へ押し当て、もう片方だけで操縦桿を握っていた。
追尾波が消え、発射架の上では次のSAMが沈黙している。
攻撃隊は採掘設備を破壊し、中央区画の写真と電波記録を持って離脱した。
ユアン機はスペクトルまで戻り、着艦索を捉えた。
救護班が操縦席を開いたとき、ユアン・リード中尉はすでに意識を失っていた。
死亡が確認されたのは、機体から運び出された直後だった。
スペクトルが強行偵察で得た最初の答えは、戦死者一名と引き換えに得たものだった。
ゼアは、航空機を目で捉える距離の外から撃つ準備を始めている。




