周辺諸国
発艦待機中、飛行士たちは格納庫の壁に貼られた航路図を囲んでいた。
ゼア大陸北東部に、黄色い小さな領域がある。
レイ第1領。
十五年前、難民と移住者の自治地域としてゼアからレイ飛地群連邦へ割譲された土地だった。
「当時は価値のない土地だと思われていた」
テフ・ブラウン大尉が言った。
「数年後に大鉱床が見つかり、ゼアでは資源割譲問題、レイでは主権問題になった。
呼び方からして、同じ事件を見ていない」
レイ飛地群連邦は、一続きの本土を持たない。
停戦協定で渡された土地、租借地、移民の自治地域、運河、国際管理地域が外交と国防を共有している。
第1領への侵入は、レイだけでなく、その周囲に利害を持つ国家を同時に刺激した。
問題は鉱石だけではなかった。
ゼアは希少金属をレーダーと誘導装置へ変え、宇宙ロケットの多段化、慣性航法、再突入体の研究まで進めている。
国際社会が恐れたのは、その技術が大陸間弾道ミサイル――ICBMへ転用されることだった。
「つまり、見えないほど遠くから攻撃を撃ち込んでくるということか」
「ああ。
飛んでくるものが見えた時点で、降伏も退避も間に合わない」
「白槍だって誘導弾だろう」
「白槍は撃つ側が相手を見て、射点まで近づく。
撃たれる側も回避できる。
ICBMとは同じにできない」
短距離誘導弾にも抵抗を示す飛行士はいる。
それでも操縦者同士が互いを識別できる距離なら、航空騎士道法の内側に置けるという妥協があった。
大陸を越え、目標も搭乗員も見ずに届く兵器は、その妥協を根元から外れている。
「ゼアの連中は、航空騎士道法を知らないのか」
「知っているから、あの研究は禁制になった。
それでも続けた者がいる」
「まだ実戦配備は確認されていないんだろう」
「確認させないこと自体が問題だ、と周辺国は言っている」
「つまり周辺国は、ゼアが大量破壊兵器を秘密裏に開発していると睨んでいるわけか」
禁制兵器の疑いがあっても、疑いだけで他国の施設へ入る権利はない。
だが、完成してからでは遅いという主張も消えなかった。
「疑わしいだけでは、査察を強制できない」
「ゼアの過激派は強制した。
それが、この戦争の始まりだ」
一人が航路図上のメガフロートを指で叩いた。
「それで今度は、許されざる技術を招いた希少金属をこちらが制圧する」
「鉱石が技術を選んだわけじゃない。
断つのはゼアの軍需生産だ。
そこを取り違えるな」
レイ第1領の鉱床、ゼアの誘導技術、各国の査察要求。
別々だった問題は、メガフロートの地下で一本につながっていた。
発艦灯が点いた。
ハーゼンは地図から離れ、戦闘機へ向かった。
歴史の正解を決めるのは彼らの任務ではない。
だが、その歴史が作った防空圏へ飛び込むのは、彼らの任務だった。




