005【路を行く、線を引く、それがやがて街になる】
〖神暦・3240 4月6日〗
日記の筆者『テオ』
場所「遺跡」
あった。これが遺跡だ。
大きな石造りの塀のような建物。
遺跡…なのか?
思っていたよりも綺麗な状態だ。
苔の生え、ひびの入った石などではなく、最新鋭の建造物のような雰囲気である。
縦、150m、奥行き10mほどだが、横幅は目視出来ないほど、大きい。
「入口あったよ。」
イズが扉を指さした。
「というか、魔法で飛び越えれば、楽勝でしょ。…って思っていたけれど、ものすごい高度まで[対物理結界]が
張られているね。」
イズが、遺跡の上空を指さした。
「だから、中を通らなければいけないんだよ。」
イズに言った。
「けど、たかが、10mでしょ? すぐに抜けることが出来るでしょ。」
早速、イズが遺跡に入ろうとしている。
「いや、そうじゃなくて、中は、魔法空間になっているんだよ。前にも言った気がするけれど、抜けるのに三日
は、かかるよ。」
僕が言葉を返した。
「ふ~ん。ま、行こう。」
イズが扉の向こうの暗闇に入った。イズに続いて僕も入った。
壁掛け松明を頼りに、方向感覚がおかしくなる暗闇を10mほど進むと、崖の上の様な場所に出た。
空が青い。いや、あれは魔法だな。空は青いが、太陽と雲が見当たらない。
ふと、下を見下ろすと、大きな平原がある。
1Kmほど先で途切れているものの、これほど大きな空間を作り出すのはそう簡単じゃない。
その平原の中心を見ると、石の建物がたくさんあった。
よく見ると都市の様な構造で、少し緑があり、神秘的な空気感が流れている。
構造上、あそこが商店街で、その向かいが公園かな?などと、想像を膨らませていると、一つ、あることに気が付いた。
噴水を中心として見れば、その都市は、道や建物が線となり、大きな魔法陣となっている。
「結界魔法だ。」
イズが呟いた。
「すごい。大昔のものなのに、まだ、ちゃんと機能している。」
イズが手ひらから小さな稲妻を、都市に向かって撃った。
ガッ
その稲妻が見えない壁に当たり、砕けた。
「やめなさい。遺跡に当たったらどうするの?」
一応注意しておいた。
「行きましょ。」
僕の話を無視してイズが、下へと飛んで行った。
「僕、羽ないから飛べないんだけど?」
背中に生えている四つの羽で、優雅に飛ぶイズに向かって叫んだ。
「飛び降りたら?」
イズが無邪気に返事をする。
「死ぬって。」
崖の下まで100m以上ある。
「大丈夫、大丈夫。 地面ギリギリで、風の魔法でキャッチするから。」
絶対に大丈夫ではない。
「ていや!」
イズが魔法で僕を崖の下に突き飛ばした。
「うわあぁぁ」
地面まで、真っ逆さまに落ちていく。
緑色の地面がどんどん迫ってくる。
地面まであと、5mもない。
まって、これ死ぬんじゃね?
そう思った瞬間、ドウッという低い音とともに、僕の体が浮き上がった。
「は?」
とっさに周りを見渡すと、僕の真下にある魔法陣から、風が吹いていた。
「だから、大丈夫って言ったでしょ?」
イズが片手でピースサインを作った。
これからはイズの話を信じようと思う。
「ありがとう。」
地面に降ろしてもらい、中心の遺跡へと向かう。
遺跡の中に遺跡がある。なんかシュールだな。
いや、そもそも魔法空間が遺跡そのものであって、あれは遺跡の一部…?
そんなことを思いながら、平原の中心へと向かう。
「思ったより遠いね…」
上から見下ろした時は、遺跡までの距離はせいぜい100mほどに見えたが、ここから見ると、500m先にあるように見える。
「というか、どーして私たちあそこ目指してあるいているわけ?」
イズが力のない声で呟いた。
「多分あそこに出口があるから。」
迷宮とか、古代都市とかは普通、中心に何かしら存在する。
中心。
全てを支え、全てが交わる場所。
古代の人々は、そんな中心に絶対的な安定感を感じ、信頼してきたのだろう。
「ふ~ん…あ、あと半分くらいよ。」
イズが指をさした。
気が付いたら、こんなところまで進んでいる。
「ホントだ。」
僕は手を頭の後ろで組み、耳を澄ませながら歩く。
風が地面をなでる音、鳥のさえずり、草の揺れる音。
それらが混ざり合い、計算された一種の音楽のように僕の耳に響く。
「平和だな…」
僕は青い空を見上げる。
もちろん雲と太陽はないが。
ふと横を見ると、イズが「ル~ルル~ルルル」と、鼻歌を歌いながら空中で踊っている。
「フフフ。」
平和だ。
10分後
「「着いた‼」」
二人で声を合わせた。
近くて見ると、やはり結界が施されているのがわかる。
シャボン玉のような薄く、ほんのり虹色な膜がある。
「対魔法結界だから、人体にはどうってことないのよ。」
その結界に、イズが触れた。
するとその結界がフィィィという音を出しながら、人間一人通れるほどの穴が開いた。
そして、そこをくぐり抜け、遺跡の中心へと向かう。
「この建物たちすごいね。こんなに高いビル、王都くらいでしか見たことがないよ。」
イズが、道の両端に連なる建造物たちを指さした。
高さは平均、20mほどで、すべて石で出来ている。
目をつむると、昔の人々の暮らしが目の裏に浮かんでくる。
「あ、見て! 石碑があるよ。」
イズが僕の腕を引っ張った。
イズについていくと、壁に文字のようなものが書かれていた。
「古代ライヒ文字だね。」
1000年程前まで使われていた文字だ。
「えっと、『ワレライチゾ…ハ、………カラノガレ…タメ、チカニ…チヲキズクコ…ニシタ。』って書いてある。所々劣化していて読めないけれど…」
古代ライヒ文字は、昔勉強したのだ。
「ふ~ん。」
イズが呟いた。
僕を引っ張ってきた割には、なにか無関心だ。
「ま、中心まであとちょっと!」
イズが僕の服を引っ張った。
気になる。解読したかったのに…。
5分後
「「着いた~(二回目)」」
大きな噴水がある。
「何も見落とすな![探法: 詳細調査]発動。」
イズが指をパチンと鳴らした。と、同時に無数の魔法陣が噴水を取り囲んだ。
ピュン ピュン ピュン
と音を立てながら、魔法陣から光の線が放たれた。
その光が当たった所から光の波紋が現れ、噴水全体的を覆う。
「開け。」
イズの声と共に、噴水の水が止まった。
「あれぇ?」
イズが首を傾げる。
その時、噴水の柱に、鍵穴のようなものが見えた。
「鍵が必要なんじゃない?」
僕は、鍵穴を指さした。
「ホントだ。この遺跡のどこかにあるってこと?」
イズが空中でひっくり返った。
けれどなぜ、開かないのだろうか。
鍵がないのは理解しているが、遺跡を通り抜ける人は少なくない。
だから、噴水を開くために鍵が必要とあらば、最初に通った者が鍵を見つけ、開いているはずなのだ。
「なんでだろう…」
僕は小声で呟いた。
「どしたの?」
「いいや、何でもない。鍵、探しにいくか。」
「そだね。さぁ、行くわよ!」
イズが拳を空に突き上げた。




