056【攻撃対象「人間」】
〖神暦 3240年 4月 9日〗
日記の筆者『テオ』
場所「完全智識保有戦艦 エル・ヴェルカント・ヴェルトラオム」
『完了。 攻撃プログラム[厘]の準備が完了しました。 これより攻撃を開始します。』
ドゴォォォォォォ
大きな音がした。
「攻撃?! イヨ、攻撃って?」
僕は急いで、声をあげる。
『攻撃プログラム[厘]は、攻撃プログラム[須臾]の為の…言わば整地です。』
「はい?」
『つまり下級の魔獣を掃討するプログラムが[厘]です。』
「…はぁ、良かった。」
僕は、胸をなでおろし、その場にへたへたと座り込んだ。
正直、もし人的被害が出ていたらどこかの国に逃げようかと思った。
「まって、その[須臾]ってなに?」
『攻撃プログラム[須臾]は、指定生物を殺戮するプログラムです。 現在、3つの生物が指定されています。』
「え、」
『「歩く災害」「敵軍・魔導魔装衛兵」「人間」の三種です。』
…人間?
「ちょおっとストップ!!! 人間?」
『はい。』
「それって、僕も…」
『いいえ、名・テオドア=ベルカント及び、名・アリス=ベルカントは、50%エルフの血が入っておりますので問題ありません。』
「それはよかっ…え、あのさ、まさか人間を殺戮する?」
『はい。』
「ちょ、あの、あれだ。[司書]の権限で撤回ってできる。」
『はい。 しかし、操舵室のメイン魔晶板からの操作をお願い致します。』
マジですか。
『…攻撃プログラム[厘]終了までの時間。 15分。 攻撃プログラム[須臾]の開始まで20分。 注意、攻撃プログラムの停止は不可能。』
20分。
「…マスター、急いだほうがいいわ。」
リリーが、僕の手を引っ張る。
「イヨ、操舵室ってどこ?」
僕は、辺りを見回す。
『ここ、大図書館「法則」から100m先の、本戦艦の船首、3階です。』
「イズ~降りてきて~」
アリスが叫ぶ。
すると、「わ、わかってるわよ~」と、ジタバタイズが下りてき来た。
「い、イヨ、道案内して。」
僕は、焦り気味の口調で、走りながら叫ぶ。
『…わかりました。』
その声がすると、走る僕とリリーの間に白い光が集まり、背の高い、30代前半くらいの女性が現れた。
「こっちです。」
その女性…イヨが指を指す。
その声は、たしかにあの電子音に似ているものの、人間味があり、聞きやすい声になっている。
…大きな壁と、扉が見えた。
「ここの扉をでると、大図書館「法則」を出ます。」
イヨが呟き、その扉に手をかざす。
すると、扉は溶けるように消えた。
奥には長い廊下が見える。
言わばスチームパンク風の、歯車がいくつも並んだ廊下だ。
かっこいい。
「いくわよ。」
その廊下のデザインに見惚れ、少し立ち止まっていた僕の背中を、アリスがおす。
「この交差点を右。」
イヨが言い、道を右に曲がる。
僕らもそれについて行き、扉を抜けた。
すると、全く違う雰囲気の図書館に出た。
先ほどの木ででき、暖かい温もりがあったのとは正反対に、黒色の鉄でできた本棚が、綺麗に整列している。
『攻撃プログラム[須臾]発動まであと15分』
電子音が鳴り響く。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
イヨが膝に手をのせ、前かがみになり、荒い息をする。
「…イヨ、アンタ大丈夫?」
イズがイヨ肩をチョンと叩く。
「いや、はぁ、ヒト形態になったの、戦場にでたぶり…はぁ、150年ぶりくらいだもの…」
イヨが深呼吸をし、スッと背筋を伸ばす。
「えー、ここが大図書館「人生」です。…説明してる暇ないか。 行きましょう。」
イヨが走り出した。
それに続き、僕らも走る。
『攻撃プログラム[須臾]の発動まで10分』
電子音、カウントダウンが船内に響き渡る。
僕たちは、大図書館「人生」を抜け、今は大図書館「分類」の中を走り抜けている。
「わかってるわよ。 うるっさいわね。」
イヨが小さな声で吐き捨てるように言った。
「あの…イヨさん?」
「なんでしょう?」
少し高い声で、イヨが言葉を返す。
「えっと…」
僕は、何を訪ねればいいのか、アタフタと考える。
「あと、どのくらいで着くの?」
「5分です。」
「えぇ、ギリギリじゃん。」
「だから急いでいるんですよ!」
イヨが叫ぶ。
「…あのさ、思ったんだけどさ。」
イズが呟く。
「イヨにとっては「人間」を攻撃対象から外すのって得があるの? なんでそんなに急いでるの?」
イズが、不思議そうに尋ねた。
「…なぜでしょう。 わかりません。 でも、なんだか急に、人間を殺したくないなって思ったんです。」
「ふ~ん。」
「あ、あの扉のさきです!」
イヨが、大きな扉を指さした。




