003【ルミナリー】
〖神暦・3240年 4月5日〗
日記の筆者『イズ』
場所「晴れの森」
振り向くとムカデのような、鉄でできた魔物が牛人の首を剣で切っていた。
「魔装魔導衛兵…さん? あ、ありがとう。」
一応、感謝の気持ちを伝えたが、そんなことは意味がない。
魔装魔導衛兵と機械兵は、人間が創り出した魔物だ。
だから、人間が制御する必要がある。
「[探知魔法: 詳細解析]」
やっぱりな、 こいつの主は既に死んでいる。
大昔のエルフだ。
どんな命令がされているのかは解らないが、ただ一つわかる事がある。
多分こいつ。私の事も殺そうとしている。
ここで戦うことも、不可能ではないのだけれど、面倒臭い事は避けたい。
魔装魔導衛兵は壊すと、膨大な魔力が行き場を失い、熱暴走を起こし、爆発が生じる。
200wIなら、ここら一帯が吹き飛ぶ計算だ。
200wI…なんだ、それだけか。
魔法空間へと転送して、そこで倒せばいい話だ。
「[空間魔法: 時空連結]発動!」
………
「できないじゃん! ふざけんな!」
は? まだ、牛人が近くにいるのか?
「[小雷]」
試しに、得意な属性の魔法を撃ってみた。
ビジッ
うん。使える。 じゃあなんでだ?
まさか…
魔力探知の視点を三人称視点に変更…
やっぱりだ。
私の魔力が150wIに、なっている。
時空連結には膨大な魔力を使う。 それこそ300wIくらい必要なのだ。
二年前、測定した時は500wIあったのに…
(♯テオ 500wIって普通に言っているけれど、500wIって物凄い数値だからね。そこは勘違いしないでほしい。)
そんなに急に、魔力が削られる事ってあるか?
何かの呪いか?
『イズ。遅い。はよ帰ってこ~い』
急に、頭の中に声が響いた。
一瞬びっくりしたが、すぐに分かった、テオからの連絡だ。
「あのね、 いまね、 魔装魔導衛兵と戦っているの。 なんか 私の魔力が150wIになってるの。 なんで?」
『落ち着け。 おまえさ、気が付いていないのか? 五、六ヶ月前には確かに500wIあったけど、今は150wIくらいに減っているよ?』
「知ってるよ。 理由は?」
『イズってずっと魔力を魔法だけに注いできただろ? 普通は身体とか精神の成長にも、魔力を使うんだよ! だから、冒険を始めてから歩いたりしているでしょ? 普通は問題ないけど、イズの場合は魔力を無理やり使って歩いているんだよ! 分かった??』
「え、 じゃあ、身長が縮んじゃったのも、そのせい?」
400年前まで、私は、普通の妖精と同じく、身長150cmくらいあったのだが、300年前くらいに、なぜか身長が20cmまで落ちたのだ。
『そ~だよ 気が付いてなかったのか?』
あ、そうらしいです。
『っていうか、魔装魔導衛兵と戦ってるの⁉』
遅いわ!
え~と、爆発を起こさずに倒す方法は…あ、そうだ。
テオの水の魔法で包んでから、爆発を起こせばいいのでは?
「テオ~こっちに来て~」
『無理。』
はい。無理でした~
う~ん…どうしよう。
シュ
空気を割く音とともに、魔装魔導衛兵の剣の先が私のほほをかすった。
「痛っ」
もう面倒くさい。
無視しよう!
そうして私は、全速力でテオの居る方向へ飛んで行った。
「はぁ、はぁ、はぁ、着いた。」
やっとテントに戻ってきた。
「ただいまー 魔装魔導衛兵は、無視したよ」
するとテオが「お帰り」とか、「大丈夫?」とかいう前にこう言ってきた。
「魔装魔導衛兵くらい倒せるでしょ…」
「むー 150wIまで減っているとは、思わないじゃん!」
「イズって、二つ名持ちの大魔法使いなんでしょ?」
「そうだけど…」
大魔法使い。 いい響きだ。
けれど、一瞬、違和感を覚えた。
「え、そのことを私、テオに言ったっけ?」
「昔、故郷の村の村長さんから聞いたんだ。 昔、村を守ってくれたって。」
「故郷の村ってどこ?」
「ホエール村だよ。」
ああ、あそこか。 海が美しいところだな。
200年前に、確かに守ったが、何から守ったかは、テオは知らないんだろうな。
「え、というか、どうして私だと思ったの?」
テオに尋ねた。
「イザベラ。」
テオが呟いた。
イザベラとは、私の本名だ。 別に隠している訳ではないが、テオには教えたことはない。はずなのだが…
「〈光雷のイザベラ〉…でしょ?」
〈光雷のイザベラ〉これが私の二つ名だ。
なぜ知っている?
「なんで知っているの?」
恐る恐るテオに尋ねた。
「だって、イズは、僕の一番尊敬している魔法使いだから。」
「答えになってないよ。」
私がそう言うと、テオがすぅっと息を吸ってから、しゃべり始めた。
「僕が小さい頃、村長さんから、〈光雷のイザベラ〉の話を聞いたんだ。〈光雷のイザベラ〉自体は有名だよ。
それがきっかけに、僕は魔法使いになろうと思った。ついでに〈光雷のイザベラ〉の事も知りたくなった。
そんで、村の図書館で〈光雷のイザベラ〉のことを調べて回ったんだ。けれど、村の図書館には限界がある。
そんな時、僕は冒険に出ることになったんだ。 これは〈光雷のイザベラ〉を探す絶好のチャンスだと思った。
そんな矢先、ふと、立ち寄った妖精の村に、『イズ』と呼ばれている妖精と仲良くなった。 別にその時は何とも思わなかったけれど、イズを冒険に連れ出してから、気が付いたことがあった。
『図書館で見た文献にあった〈光雷のイザベラ〉の魔法を使う瞬間の魔力の流れと、とイズの魔法を使う瞬間の魔力の流れが、完全に一致している。』って。
これは何かしらあると思ったんだ。 で、ここに至る。」
テオが口を閉じた。
「で、ここに至る。 じゃないのよ! 省略するな!」
いや、まぁ、言いたい事は解った。
「まぁ、そう言うことね。」
「…いやぁ、確信が持てなかったから、もし違ってたら気まずいなと思ったけど、大丈夫だったぁ。」
テオが右手でピースサインを作り、私に向けた。
「あぁ、うん。あのさ、魚! 魚、釣ってきたよ~」
魔法空間から、二匹の魚を取り出した。
「おっ。焼くか。」
テオが魔法で、空中に炎を出して魚を焼いた。
…あ、待って。 空中に火を浮かせることができるのならば、薪を拾ってくる必要なかったのでは?
「焼けたよ。」
一瞬。早すぎる。
「まぁ、食べるか。」
「いただきま~す。」
私は魚を一瞬で平らげた。
「それにしても、一番尊敬してるって言う割には、扱い雑じゃない?」
私はテオをポンと叩いた。
するとテオが、自分の魚の骨を丁寧に外しながらにやりと笑った。
「だって、気づいたの、仲良くなってからだもん。それにさ、そういうところ。」
私は、魚の脂のついた指を舐めながら、怪訝な顔をテオに向けた、
「ふふふ。でも、尊敬してるのは変わらない。」
テオが青空を見つめながら言った。
その目は、いつもより澄んでいるように見えた。




