002【機械兵?】
〖神暦・3240年 4月3日〗
日記の筆者『テオ』
場所「晴れの森」
《バター高原に行く道はこうだ。
まず、晴れの森から東にあるウェイタ平原に行き、そこにある飛空場から一気にバター高原を目指す。
言葉で言うと簡単だが、これが意外と大変なのだ。
飛空艇に乗ってしまえば良いのだが、ウェイタ平原に行くまでの道中に大きな遺跡があり、そこを抜けなければいけない。
別に、その遺跡を避けて遠回りすれば? と思うかもしれないが、そう上手く物事は進まない。
その遺跡が大きすぎるのだ。ただ単に大きい。
遠回りすると、三ヶ月はかかるだろう。
だから、遺跡の中を三日かけて通り抜ける必要があるのだ。
……
それを合わせるとヴェルク村まで十日かかる計算になる。
ここから遺跡まで行くにはあと二日くらいかかるし、気長に行こう。
あ、ちなみに飛空艇の代金はギルマスに『飛空艇代ください。金欠なんです。』と、手紙を送ったら 飛空艇二人分の代金を送ってくれた。
ま、ホントはお金あるんだけどね☆。》
〖神暦・3240年 4月5日〗
日記の筆者『イズ』
場所「晴れの森」
《昨日、テオが「もうちょっとで遺跡につく」って言っていたのよさ。
遺跡って?
ま、細かい事は気にせず楽しむか。》
「[生活楽ちん魔法: 自動お着替え]はつど~。」
魔法陣を足元に出現させ、寝間着からワンピースへと着替えた。
「すごいでしょ。 尊敬しちゃうでしょ。」
テオに自慢した。
だが、私は知っている。
多分、前と同じ反応が戻ってくるだろう。
「うん。 それ毎日言っているよ?」
ほらね。
「作り置きが切れたから、[作り置き召喚]は出来ないよ。」
そうそう。朝ごはんの在庫が切れていたのだ。
「は? それは早く言っておいてよ。」
あれ?なんかテオが怒った。
ま、二人分の魚を釣ってくれば済む話だ。ここから50mのところに川があったから、そこで釣ろう。
「魚を釣ってくるね~♫」
満面の笑みでテオに手を振って、テントを出た。
テオが「行ってらっしゃい…早く帰ってきてね…」と微かに言っていた。
まあ、飛べるから一瞬で着く。
「川の方向はこっちだったよね…」
川の音がする方向に、私は飛んで行った。
約三十秒後
「着いた。」
高度2mほどに浮遊しながら川を眺める。
朝日を受けた水面がキラキラと輝いている。
さらさら流れる水は透き通り、川底まで日の光が届いている。
そして、その透明な空間の中を魚達がゆっくりと泳いでいる。
私は空を仰ぎ、大きく深呼吸した。
「やっぱり、冒険に出て正解だったよ。」
本当にそう思える。あのまま魔法の研究だけをしていたら、こんな美しい景色は見られていない。
テオのおかげだな。
…忘れていた、魚を釣ろう。
人差し指から出した稲妻を、二匹の魚にあてた。
「よいしょっと」
二匹の魚を魔法でこちらに持ってきて、魔法空間に転送した。
「あれ?」
遥か遠くの何かが私の魔力探知に引っ掛かった。 ただの人かと思ったけれど、違う。
人の魔力量は平均50ウィザード(wI)、エルフは60wI 妖精は80wI なのだが、あれは違う。
観測できる段階でもアレは、200wIはある。
しかも、物凄く殺意の籠った魔力だ。
魔物…魔物で200wI持っている者は、そこまでいない。
ちなみに私、妖精も魔物の一種なのだ。
魔物は人間とエルフ…あとドワーフ以外の、魔法を使うことができ、理性のある生き物を指す。
まあ、そんな事はさておき、200…あ、機械兵だ。
機械兵は、体全体を魔力で動かしているので、観測すると膨大なwI数になるのだ。
『イズ~ 帰ってきて~』
私の頭の中に直接、テオの声が響き渡った。
[日常魔法: 魔法通話]…いわゆるテレパシーだ。
「は~い。」
機械兵に後ろ髪惹かれつつ、テントのある方向へと飛び立った。
飛び立った…
飛び立てない。
なぜだ?
何かに妨害されている?
「[探知魔法: 周辺捜査] 発動…」
発動…出来ない。
魔法の使用、そのものを妨害されているという事…かしら…
「まって もしかして歩かなきゃいけない?」
身長20cmなのに? 歩幅6cmなのに?
色々と、詰んだ。
まず、魔法が使えない理由を考ないと、多分どうにもならない。
一番最初に思い浮かんだのが、[封魔結界]の中に囚われたという仮説だ。
しかし、それには違和感がある。
魔法を使うときに発生する魔力を、私の魔力探知が見落とす訳がないのだ。
人間で例えるなら、目の前で爆発した爆弾の音を聞き逃した事と同じ状況だ。
だから、この仮説は違う。
「う~ん…あ、そういう能力を持った魔獣かな?」
それが正解だった。
ドガン!
頭上から斧が降ってきた。
ギリギリでかわすことが出来たが、斧の存在に気づいていなければ、今頃私は死んでいる。
「どうしよう。 このままじゃ負ける。 まともに戦うことすらできない。」
魔獣とは、はっきりとした意識が無く、本能のままに生きる魔物を指す。
私は逃げながら、その魔獣を観察する。
下半身は馬…牛か?上半身は人間(いやサルに見えるが…)の魔獣で、魔力探知が使えないので、wI数が解らない。
恐らくこれは『牛人』だ。
は、皆さんご存じ人馬と似ているが少し違う。
人馬は、魔物科・馬族で、牛人は、魔獣科・牛族…馬か牛か、意識が有るか無いかの違いだ。
それなら、この魔獣の魔力量は人間と大して変わらない。
けれど、こいつの心臓には直径50m以内の魔法を封じる、『封魔』の力が備わっている。
今、戦ったら負ける。 そもそも私には魔法しか無い。
これがあの200wIの正体か?
魔力探知が使えないから解らない。
え~と、え~と、え~と、考えろ、考えろ、考えろ、何かないか?何かないか?何かないか?
その間にも、アレは追いかけてくる。
「待って、テントと逆の方向に逃げてる! 戻らなきゃ!」
と、叫んだ瞬間、なぜか魔力探知が使えるようになった。
と、同時に背後に物凄い魔力を帯びた物が居ることに気が付いた。
「な…?」
200wI…殺意の籠った魔力。
至近距離の今なら、振り向かずとも、手に取るようにわかる。
これは機械兵なんかじゃ無い。
もっと高位の存在…魔装魔導衛兵だ。




