001【今から始まる 冒険日記】
〖神暦・3240年 4月1日〗
日記の筆者『世界』
場所「晴れの森」
《季節は春ごろ、やっと長い冬が開け、人間たちは農業の準備をしている。
その時ふと、「晴れの森」に目をやった。》
「[水流魔法: 水刃]!」
その森の中で、腰に剣をさした赤髪の少年が、魔法らしきもので一本の木をなぎ倒した。
「う~ん…もう少し広範囲に攻撃できるようにしたいな…」
少年が言い、指をパチンと鳴らした。
「改良版。[円形水斬」!」
その少年がそう叫ぶと、水でできた剣が無数に出現し、その剣が高速で回転し始めた。
ドカン!
大きな音を立て、少年から半径10m以内にあった木が全て吹き飛んだ。
「こっわ…もう少し威力抑えないと…」
少年がつぶやいた。
その少年の名は『テオ』。
魔法使いだ。
「あ、あの~もう日が暮れちゃてるわよ~」
テオの後ろで声がした。振り返ると背丈が20cmくらいの、女の子…いや、妖精が羽をばたつかせ飛んでいた。
「あ~、そうだイズ。焚火のために、木の枝拾ってきて。」
テオが言った。
その妖精…イズが、「はいはーい」と返事をし、面倒くさそうに森の方へ飛んで行った。
テオがリュックを地面に置き、叫んだ。
「開け!」
すると、そのリュックは煙を出しながら大きくなり、三角形のテントのような形へとみるみるうちに変わっていった。
「戻ったよ~。」
ふわふわと浮いた数十本とイズが戻ってきた。
そして、魔法でその枝を焚火の形に組み、手から炎を出した。
「ていやっ!」
「早かったね…」
テオが言った。
「お腹すいた。なんかな~い?」
イズがテオに尋ねた。
「何にもないよ。」
テオが答えた。
「じゃあ、魚でも釣ってく~るね~」
イズがものすごい勢いで、川のほうへ飛んで行った。
「大丈夫かな…」
テオが頭を抱えた。
数分後
「戻ったよ~ん♫」
イズが自分の身体の三倍はある、大きな魚を担いで帰ってきた。
「おーすごい。じゃ、焼くか。」
テオが魔法で魚を焚火の上に浮かせた。
「後は魔法が勝手にやってくれる。」
テオが言った。
「冒険を始めて半年か…」
テオが星空を眺めながら言った。
「そだね。」
返事をしながらイズが、焼き魚を一人で平らげた。
「ちょ、お前…そんな量、どこに入るんだ?」
テオが驚いた。
「ま、寝ましょ」
テオに話を無視してイズが、テントの中に入った。続けてテオも、空きっ腹を抱えたまま焚火の灯を消し、テントの中へと入っていった。
〖神暦・3240年 4月2日〗
日記の筆者『テオ』
場所「晴れの森」
《この頃やっと暖かくなってきた。
故郷の村では今頃、田んぼの下準備をしているはずだ。》
「おはょ」
イズが起きてきた。
「おはよー」
イズが目をこすりながら呪文を唱え、足元に魔法陣を出現させた。
「[生活楽ちん魔法: 自動お着替え]」
魔法陣から放たれた小さな稲妻にイズが飲まれ、稲妻がジジ…と音を立てながらゆっくりと消えると、そこには青いワンピースを着たイズが居た。
「すごいでしょ。 尊敬しちゃうでしょ。」
「うん。 それ毎日言っているよ?」
適当に返事をしながら、僕は朝ごはんの用意をはじめた。
保冷バックの中に、氷漬けにされた魚が数匹入っている。
魚はあるな…めんどくさいし焼くか。 大抵の食材食材は、焼いて、塩をかければ食べられるというのは常識である。
「[生活楽ちん魔法: 作り置き召喚]~~~~~~~」
『ん』をイズがむっちゃ伸ばした。
それはさておき、目の前にサンドイッチが姿を現した。
…明日から朝ごはんはこれでいいや。 こんな便利な魔法があるなら、先に言っておいてほしかった。
「すご。どういう原理?」
何も無い所から、何かを出現させるという[日常魔法: 物的召喚]自体は何処にでもある一般魔法だ。しかし、出現する物が食料品なら話は別だ。 まず、[物的召喚]は、予め魔法空間に転送させておいた物を現世に呼び出す魔法だ。
元々は、戦場で素早く武器や盾を取り出すために開発された魔法だと、聞いたことがある。
だから、食品の取り出しには向いていない。
「原理はね、えっとね…作った食品を一回量子に変換して、そのバラバラになったものを魔法空間へ送り込むの。
で、取り出す時に再構成すると… あ~ら不思議 何と、食品が召喚できるのよ。」
…ものすごく難しい話だ。僕には理解できない。
イズはこう見えても(#イズ こう見えてって何よ~)魔法の天才なのである。
身長は小さいけれど、実は500年くらい生きている。
イズは、その500年間を実に無駄にして過ごして来たのだ。
くる日も、くる日も、ずっと魔法の研究だけに打ち込んで来た。
魔法の研究のために魔力を使い続けたため、精神の成長が遅かった。
今は大体精神年齢12歳くらいだろう。
13歳の僕から見ても、イズはとにかく世間知らずだ。だから、僕が無理やり冒険に連れ出した。
『イズ! 魔法ばっかりじゃなくて、もっと世界を見に行こう!』と。
そして今のここに至る。
「いただきまーす。」
二人で他愛のない話をしながら、サンドイッチを食べた。
食べ終わるころ、小さな鳥が飛んできて、テントの隙間に『テオイズコンビへ ギルマスより』と、書かれた封筒を挟んだ。
「ねえねえ。なんか、冒険者組合…ギルドから手紙、届いてるよ。」
イズがテントの隙間に挟まっている封筒を開き、手紙を取り出した。
冒険者組合とは、この国の冒険者のほぼすべてが所属している組合だ。
「なんて書いてある?」
イズに聞いた。
「えっとね、ギルマスからね『よ~よ~ テオイズコンビ! 君たちにお願いしたいことがある。』」
イズがギルドマスターの低い声真名をした。
「『それはだな… お使いだ!』」
お使い?
「『ちょっくら、セレスタル地方のヴェルク村まで行って、村長に預けている「風に関する魔術の書」を受け取っ
て、冒険者組合本部に持ってきてくれ☆』って書いてある。」
イズが手紙を畳んだ。
「ふざけんな。」
それと同時に、イズが手紙をびりびりに破いた。
その気持ちは良くわかる。(が、物に当たってはいけない)
セレスタル地方というのは、ものすごく標高の高い場所である。
それだけに、行くのも面倒なのだ。
ちょっくら、のノリで行けるような場所ではない。
「ん?」
封筒を畳もうとすると、何か違和感があった。
奥を見ると、もう一つ手紙があった。
広げて読んでみる。
「追伸。 報酬はイズが欲しがっていた古代呪具なんてどうだ? らしいよ。」
一応イズへと言ってみた。
「よし。 やるか!」
切り替えが早い。
「セレスタル地方って、バター高原の奥のさらに高いところでしょ? バター高原でさえ、標高1200mなのに、
ヴェルク村のある所は標高2500mだよ? ほんとに行く?」
バター高原には竜がいるのだ。
それも怖いし…あと寒い。
「いくぞ~!」
イズは行く気満々だ。 はぁ、行くか。
「じゃあまず、バター高原を目指すよ。荷物まとめるから、テントから出て。」
いつもとは違い、意気揚々とテントを出るイズに続く。そして、外に出ると僕はこう叫んだ。
「閉まれ!」
すると、テントの上空に魔法陣が出現し、テントが引き寄せられて行く。
「リュックに変われ。」
大きなテントがたちまち何の変哲もないリュックへと変化した。
そのリュックを空中からとり背負った。ずっしりと肩に重みがかかる。
「バター高原の方向ってわかる?」
イズに聞いた。
「ちょっと待ってね。」
イズがお茶碗サイズの方位磁針を出現させた。
「バター高原の方向を教えて。」
イズが方位磁針に問いかけた。
すると方位磁針がクルクルと数秒回り、日が昇ってきた方向…東を指した。
「こっちみたいだよ~」
イズが指をさした。
あ、そりゃあそうだ。
今まで忘れていたが、バター高原が東山脈地帯にあるのは、周知の事実なのだ。
ここ、晴れの森からは、ざっと200km…飛空艇などに乗れば一週間で着くだろう。
あの手紙には、期限など書いていなかったから気ままに、楽しく向かうとしよう。
「何ぼ~っとしてんの? 行くよ!」
イズが僕の背中をたたいてきた。
「よし。 行くか!」




