036【契約精霊が消えたわけ5『契約破棄』】
〖神暦 3240年 8月 24日〗
日記の筆者『マリリア』
場所「ホエール村付」
…マスターが倒れた。
妾は、テオのほほをツンツンとつつき、「おきろ~」と声を掛けた。
「…うぅ」
テオの目が開いた。
「…起こして。」
テオが妾に手を差し出す。
「…しょうがないわね。」
妾は、テオの手を取った。
ビチッ
テオの手から何か静電気のような物が流れた。
…前から、にたようなことはあったが、痛みを感じたのは、今回が初めてだ。
妾は、不思議に思い、テオを起こしたあと、もう一度テオの手に触れた。
バチバチ
痛っ
これは何なのだろう…
…電気じゃないな…
あ、魔力だ。
…何故?
「マスター 今魔法使ってないわよね。」
妾はテオに問う。
「ん? 使ってないよ。」
…どういう事だ?
「マスター 動かないで。」
妾は、テオに鑑定魔法を掛けた。
…ん?
呪い…なのか?
テオに呪いがかかってるように感じた。
呪い?
「どうしたの?」
テオが言う。
「…いや、ないでもないわ。」
妾は、この呪いの正体を解き明かすべく、テオに鑑定魔法を全力でもう一度掛けた。
…完全に呪いだ。
…相手の魔力を染める、洗脳に近い呪いだ。
…何だろう。
「マスター、この頃森に行ったりした?」
妾はテオに尋ねた。
「いいや。」
じゃ、幽霊とか魔獣とかじゃないか…
…なら、近くにある元凶の魔力にずっとさらされ続けて、一種の魔力中毒を起こしたのか?
「う~ん。」
妾は、腕を組んで考え込む。
魔力…魔力…魔力…
あ、もしかしたら、いや、けど…う~ん。
「ね、アリス。 アリスと、マスターって魂の導線…魔力回路て繋がってる?」
妾は、一つの仮説を立て、それを確かめるため、アリスに尋ねる。
「ええ、繋がってるわよ。」
アリスが答える。
「マスター、マスターの魔力量って、いくら?」
「えっと、25wIくらいだよ。」
「アリスは?」
「80wIくらいよ。」
80⁈
うん。
妾の仮説は正しかった。
恐らくこれのせいだな。
恐らく、テオの魂がアリスの魔力に圧迫されていたのだ。
魂の導線、その中の一つ、魔力回路。
この線がつながっている人同士は、魔力の保管場所が同じ空間になる。
そして、その部屋のような場所約8割の魔力をアリスが占めている。
つまり、テオの体に、自然に漏れ出るアリスの魔力が流れ一種の魔力洗脳のような状態になってしまっているのだ。
そして、あの『ビチッ』は体内の、自分では使用できない魔力(アリスの魔力)が溜まり過ぎて、漏電と同じようなことが起こっていたんだ。
「…ホントにどうしたの?」
テオが妾に問う。
「う~ん。 いや、なんでもないわ。」
妾は「なんでもない」と言ったが、これは少し考えなければならない状況だ。
まず、大前提として魂の導線は切れない。
そして、テオはアリスの魔力に圧迫され続ける。
…そこに、テオは妾に魔力を分け合与えている。
つまり、テオはずっと魔力を消費・圧迫され続け、魔力酔いを起こし、
死ぬかもしれない。
「…ま、今日は帰りましょう。」
アリスが言った。
「…そうしよっか。」
テオが答える。
数分後
「ただいま~」
テオが扉を開けて家に入る。
「おお、弟よ帰ったのか。 朝ごはんできておるぞ?」
エリザベスが出迎えてくれた。
「ありがとう~」
テオが靴を脱ぎ、手を洗い、ダイニングテーブルに座った。
それに続き、アリスと妾もすわる。
「「いただきま~す」」
テオ、アリス、エリザベス、妾の四人で声を合わせ、食べ始めた。
「そういえば、お姉ちゃんどこ行ってたの?」
テオがエリザベスに尋ねる。
「ああ、東天空郷じゃ。」
「…あぁ、それは、知ってる。ゴメン言い間違えた。 何しに行ってたの?」
「ああ、えっと、私は…」
何やらテオたちが喋っている。
…魔力の圧迫。
テオを救うは…
………………………
あ、
妾が契約を破棄すれば、テオは魔力が減ることがなくなり、アリスの魔力に抵抗できるのでは?
妾は、そう思った。
そう思い、思考実験を繰り返した。
えっと、失われる魔力がXで、一分間に体外から取り入れる魔力がYで……
そして、導き出した。
妾が契約を破棄すれば、テオは助かる。
…けど、契約を破棄するのは嫌だ。
…けど、テオが死ぬのはもっと嫌だ。
…なら、契約を破棄するしか…
妾は一日中考えた。
考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えた。
気づけば日は落ち、辺りは真っ暗になっていた。
やっぱり、契約を破棄しよう。
妾は、決心した。
「リリー、僕寝るね。」
テオが眠そうな顔で言う。
「あれ? どっか行くの?」
テオは妾の白いワンピース姿を目にとめる。
「いや…なんでもない」
妾は、下を向く。
「…どうしたの?」
テオが心配そうに妾に尋ねる。
「大丈夫よ。」
「けど…」
テオが何か言いそうになった。
けれど、これ以上テオに話しかけられると、妾の決心が揺らいでしまう。
「…マスター 朝の約束、保留にしたやつ、今使うわ。 『それ以上の詮索をしないで』」
…[契約破棄]
妾はテオにバレないように、静かに全ての契約を断ち切った。
妾の目に、すこし涙が浮かんだ。
「…リリー?」
テオが妾を覗き込む。
「なんで泣いて…」
テオが言いかけたが、その言葉をすぐに飲み込んだ。
そして、そっと妾を抱きしめた。
「…僕にはよくわかんないけど、大丈夫だよ。きっと。」
テオの優しい声が妾の心を包む。
「…」
妾は、涙をふき、テオを抱きしめた。
「…[眠れ]」
妾は、魔法でテオを眠らせた。
妾の消滅を気づかれないように。
「バイバイ」
呟いた。
そして、家を出ていった。
ーーーーーー
夜の村。
明かりは無い。
ピカッ
妾は、眩い光に包まれた。
「…時間か。」
そして、静かに目を閉じた。




