018【留守番】
〖神暦・3240年 4月8日〗
日記の筆者『イズ』
場所「遺跡」
このごろ、テオが過労で倒れまくっている。
ねぎらってやらなければ…
そんなことを思いなら、塔を登る。
「あれ?」
壁画が途切れている。
最後の絵には、誰もいなくなった街が描かれている。
「また文字だ。」
右上に何か書かれている。
「…それは一瞬だった。 我らの築いた魔法も、知識も、伝統も、紙くず同然に切り崩されて行く。」
テオが呟いた。
…なるほど…
私、(車椅子)は何も無いらせん状のスロープを上がっていく。
何分か上っていると遂に屋上に出た。
天井はなく、周りを囲む様に低い石の壁がある。
そして、中央には光の球体のようなものが浮いている。
恐らく出口だ。
「やっったぁ!」
私が出した大声で、テオが目覚めてしまった。
「へ?何が?」
テオはゆっくりと立ち上がり、辺りを見回した。
「あ、もしかして、イズがここまで連れてきてくれたの?」
テオが私を見た。
「そうよ?感謝してよね~」
「…ありがとう!」
こうやって感謝されるのはいい気分だ。
これからも人助けをしよう。
「へへっ」
私は、少し笑い魔法で車椅子を消した。
「じゃあ、現世に戻るわよ?」
私は、テオの手を引っ張り、光の球体に触れさせた、そして、私も触れた。
キィィィィン
…ここは?
気がつくと、私は暗闇にいた。
自分の身体が意識できない。
すると突然、声が響いた。
『どうでしたか?』
…この声、どこかで聞いたことがある。
あ、この遺跡に入ったときになんか『敵意はないと判断。通行を承諾します。』みたいなことを言っていた声だ。
遺跡がどうだったかって?
まぁ、思っていたより綺麗で美しかった…
『そう言って頂けると幸いです。』
な? 私、何も言っていないぞ?
『失礼ながら、私は心の声が聞こえるのです。』
ふ~ん。
心の声が聞こえているというのは、怖いはずなのに不思議と恐怖心は湧かなかった。
というか、貴方は誰?
『私は、約1000年前に滅びた街、ガイア・ノアの最後の王、セシリア・ベルカントです。』
ベルカント…この苗字、どこかで聞いたことがあるような…
『ん? ベルカントはエルフの王族の苗字ですよ?』
あぁ、そうか…
何か引っかかるが、まぁおいておこう。
…そもそもここはどこだ?
『…ここは貴方の精神世界です。』
精神世界?
『ええ、貴方の精神に私がお邪魔しているような感じですね。』
ふ~ん…なんで?
『ここにいるのは私一人なので、悲しいのです… なのでこの遺跡を通った者とおしゃべりするのが、楽しいんです。』
なるほどね… というか、どうしてこの街は滅びたの?
『…覚えていません、あの時は逃げるのに必死でしたから…』
逃げる?
『ええ、私でもよくわかりません…』
ふ~ん…あっそうだ、あの魔装魔導衛兵、貴方の物?
『外にいるやつですか? ええ、あれは1000年前にこの街を守っていた…言わば衛兵です。けれど、主である私が死に、魂だけの存在になってしまったので命令の取り消しができず、暴れているというわけです。』
なーるほどね。だからか…待てよ? 魂のままこの世に存在出来ているだと?
『ええ、そうなんです。理由はわかりません。 私、視覚も聴覚も嗅覚もありませんから、もう、この状態は嫌なんです。』
…セシリアさんはずっと暗闇に一人でいたんだな…
どうして魂が消滅しなかったんだろう、理由が気になる…解析するか。
…精神のまま、魔法は使えるか?
やってみよう。
…[解析魔法: 詳細解析]!
…出来た。
すると、脳内にセシリアさんの過去のことがドッと流れ込んできた。
…なるほど、そう言う事か。
『どうゆうことです?』
セシリアさんはね、呪いに似たものが掛かっている。
『呪い?』
うん。けど、魔法じゃない。
『魔法じゃない呪いなんて存在するんですか?』
うん。有るよ。 愛だ。
『愛?』
知らないの? この世で一番強い呪いは[愛]なんだよ?
『…つまり、どういうことですか?』
つまり、セシリアさんはこの街と、昔ここに住んでたエルフ(ひと)達が大好きなんだよ。
手放したく無いという気持ちが強すぎて、セシリアさんそのものが自分の魂を束縛しているんだよ。
皆が留守の間、居場所を守らなきゃ、って。
『そう言う事でしたか。』
セシリアさんの顔は見えないので分からないが、彼女が少し笑ったような気がした。
そうだ、セシリアさん。 もし望むなら、私ならその魂の束縛から開放出来るよぅ?
『…まだ大丈夫です。』
そう。…セシリアさんは悲しくないの?
『ええ、貴方達のような方々から色々なお話が聞けますもの。 あ、もう時間です。 では、さようなら。』
さようなら。
彼女の優しい声が頭の中に響いた。




