第55話:荒野の戦い7
城の周りを、物凄い数の群衆が取り巻いていた。
「敵を逃がしちゃったほうが損害が少ないと思いますがね」
「こうなってしまっては、そうもいかんよ。みろ皆殺気立ってるぞ」
城からは、矢が群衆に打ち込まれており、密集しているので必ず誰かには当たっていた。
群衆からは、石が投げ込まれていたが、あまり効果はないようだった。
「こりゃあ放置していると、大変ことになりかねんな」
「策はありますよ、あの城門を壊せばいいんでしょう」
俺は物凄く嫌な予感がした。今までのあれこれを思い出していた。
「今回は大丈夫ですって」
「その言葉何回も聞いた気がするんだが」
「気のせいですよ」
「今回はこれを使って城門を焼き払います」
「あれか、まあそれならそんなにひどい事にはならないだろう」
「大丈夫ですって、じゃあイタリカ軍の将校を呼んでもらってください」
俺がイタリカ軍の将校を探し出し、ハンスに紹介した。
ハンスが、作戦を話すと、将校は目を輝かせて喜んだ。
「決行部隊を募ります。これであいつらも御終いだ」
将校は部隊を募ると、ハンスの兵器を積んだ荷車を城門に近づけていった。
「お前らそこどけ、ハンス様の破壊兵器だぞ」
そこらじゅうで歓声があがった。
「破壊王ハンスの秘密兵器だ」
「これであの城は終わりだ」
「皆殺しにしてやる」
「家族の仇だ。思い知れ」
群衆が道を開けた。そこをイタリカ軍の決死隊が進んでいった。
城門の前まで来ると、城から盛んに矢が打ち込まれた。皆盾を持っていたが、矢に当たって負傷する者も出てきた。
しかし、イタリカ軍は城門前に達した。
「皆投げ入れろ」
将校の合図とともに、全員があるものを城門に投げつけた。
それは赤ん坊の頭位の丸い壺だった。
大量の壺が、城門にぶつけられ壊れて中身をぶちまけた。
「火矢打て」
大量の火矢が城門に打ち込まれた。
火矢が城門に刺さると、突然炎が舞い上がり、轟々と燃え盛り、城門は火に包まれた。
「これはいったい」
「何という炎だ」
実は、あの壺の中には、俺の領地で作った蒸留酒が詰め込まれていたのだ。
何度も何度も蒸留を繰り返した高濃度の蒸留酒だ、よく燃えるぞ。もったいないけどな。
高濃度の蒸留酒の入った壺は、際限なく投げ込まれ、城壁は炎上した。さらに一部の壺は城壁の上にも投げ込まれ、そこも火の海とした。城壁上の敵兵は、燃え上がる火を避け、逃げ散っていたため反撃することもできなかった。
しばらくして、城門は燃え落ちた。
「あ、あれはなんだ」
木の城門は燃え落ちたが、その先に鉄の格子があるのが見えた。
「これじゃあ、突撃できないぞ」
「城門が二重になっているとは」
「占領後に補強したのか」
「どうしたもんかな」
俺はハンスの方を見たが、ハンスは極上の笑みを浮かべていた。
「大丈夫です、こんなこともあろうかと別の機械を作ってきました」
「凄く悪い予感しかしないんだが、本当に大丈夫なんだろうな」
「勿論ですとも、私を信用してください」
「それができるなら心配しないよ。しかし他の策もないしなあ」
「大丈夫ですって」
「おーいあれを持ってこい」
でかい荷車みたいなものが引き出されてきた。
「おい、俺はこれに見覚えがあるぞ、ドリルカーだろ」
「違いますよ、どこにもドリルはついていませんから、ドリルカーじゃあありません」
「じゃあ、これはなんだ」
「ドリルカーからドリルを取ったものです、はずみ車の力で、あの鉄の格子を引っ張って破壊します」
なんだか物凄く嫌な予感しかしないが、イタリカ軍が大喜びで機械に群がっている。これを使うなとは、俺には言えないな。
ハンスが、イタリカ軍の将校に命じて、ドリルのないドリルカーを、城門近くまで引っ張っていかせた。
城門も城壁の上も火の海になっているため、反撃は全くなかった。
何人かの兵が、はずみ車の軸に結ばれた綱の先に着いた鉄の鉤をひっぱっていき、鉄の格子に引っ掛けた。
準備が全て整った時、ハンスが片手をあげた。
楔が抜かれた。
はずみ車は、もの凄い勢いで回転しだした。
余裕をもって繋がれた綱も物凄い勢いで巻き取られていった。
最後に綱がぴんと張って、鉄の格子を引っ張った。
しかし格子は外れなかった。意外と丈夫だったようだ。
すると、その力は全て、ドリルのないドリルカーにもろにかかった。固定されていた杭が全て音を立てて抜けた。ドリルのないドリルカーはあっという間に横転し、はずみ車だけ城門に突進していった。
はずみ車が城門の格子に激突すると、格子は粉砕され内部に吹き飛ばされた。同時に石のはずみ車も大きく割れて、その破片が凄い勢いで内部に転がり込んでいった。
城の内部から、何かがぶつかり、壊れる音が響いた。
「何だこれは」
「逃げろ」
「痛い痛い」
城内から悲鳴が聞こえた。
俺は頭を抱えた。
「なんか以前おんなじ光景を見たような気がするんだが」
「気のせいですよ」
ハンスが全く気にしていないようにすましていった。
イタリカ軍が、歓声をあげて壊れた城門からなだれ込んでいくの見えた。これでこの城は落ちたろう。この戦ももう終わりだ。
ふとユングの顔が浮かんできた。もういいや家に帰ろう。




