第45話:泥の戦い3
翌朝、俺たちは30台のカタツムリで出発した。カタツムリは泥の上をすべるように動いていた。
水牛も問題なく歩いていた。時々横倒しとなって背中を泥にこすりつけたりしているが、至極快適そうだった。水牛使いが背中をかいてやったときなど嬉しそうにモーと鳴いていた。なんだかのどかな光景にも見えた。
「万事快調だな」アジェンダ隊長が俺にそう話しかけた。
「はい、現在は問題ありません」
「あの清水製造装置にも助かっている。今までは薄いワインが尽きると泥水をすくって飲まなければならなくなり、みな下痢していたんだ」
「さすが兵站のハン卿だな」
「お褒めにあずかり恐縮です」
「この干芋とドライフルーツも凄い。肌荒れが起きない。さらに」
アジェンダ隊長が顔を赤らめちょっと言いよどんだ。
「あの、便通も良い」
「恐縮です」いや、そこまで聞いてないから。
「あのキッチンカーで作られる野菜スープも好評だ。戦地で暖かい食べ物が食べられるとは驚異的だ。おかげで兵たちの健康も良好だ。士気も高い、感謝する」
泥の中を3日進んだ、この沼沢地は全てが泥沼というわけではなく、ところどころに島のような陸地があり、途中そこで休むことができた。
カタツムリは大体は問題なく動いた。時々板をつないでいた革ひもが切れることがあったが、これはすぐに修理することができた。
前進基地の丘に到着した。
残置した偵察兵が報告した。
「特に変化ありません、敵の増援もなく、賊は30人で変化ありません」
「よくやった。哨戒任務を解く、これから賊の討伐作戦に移る、元部隊に復帰せよ」
「了解しました。元部隊に復帰します」
アジェンダ隊長が、全員を前に訓示を述べた。
「明日早朝出撃する。A,B,C,D四隊を編成する。一隊15人とし、A隊は北から、B隊は南から、C隊は東から、D隊は西から館を包囲する。カタツムリ一台に5人乗ることとし、カタツムリ12台と、指揮車一台の13台で出撃する」
「敵は正規軍ではない賊軍だ、こちらは正規軍で数はその倍いる、絶対に負けるわけにはいかないぞ」
「おー」全員が拳を天に突きあげた。
「そのうえ、ハンス殿の秘密兵器があるようだ。ドーバー城の惨劇で有名な破壊王ハンスの名は皆知っているだろう。今回も奇想天外な手段があるようだ。皆楽しみにするように」
「あのハンスか」
「破壊王だぞ」
「俺たちの出番なんかないんじゃないか」
「ちがいない」
「楽しみだな」
全員が有頂天になっていた。
ゲリラが強いのは、居場所を特定できないからだ。居場所を特定されればゲリラは正規軍の敵ではない。明日は普通に勝てるだろう。
問題はハンスの秘密兵器だな。俺にも詳しいことは言っていないんだ、秘密とか言っていたな。何を考えているんだか。凄く不安なんだけど。




