第36話;凱旋
ブルク王国との国境を超えると、騎士の城が見えてきた。
そして道の先には、王国軍の騎士全員が、整列していた。
これはブルク王国軍の凱旋の儀式だった。大きな戦に勝った軍勢を、境目の城で国を守った騎士が、道の両側に整列し、出迎える儀式だった。
騎士の城城主キルシュナー卿が出迎えた。
「キルシュナー卿、護国の任よくぞ守られた」
「シュバルツ卿、かくも重い任務を成就されたのことお喜び申しあげます」
二人はがっしりと握手した後、キルシュナーが厳かに後退し、シュバルツに先に行くよう促した。
シュバルツは軽くうなずき、全軍に合図した。
「今回、王より凱旋の議を執り行えとの命が下った」
「これから凱旋の議を執り行う。全軍、粛々と前進せよ」
シュバルツを先頭にし、全軍は粛々と進んだ。その先には、騎士の城の騎士全員が街道の両脇に整列していた。
全員がピカピカに磨き上げられた鎧を着こみ、光る槍を掲げ、微動だにせず整列していた。
シュバルツ軍一万五千は、その列の間を粛々と行進した。全軍が行進終わるまで、騎士の城の騎士は、まるで彫像のように全く微動だにしなかった。それが戦に勝って凱旋した戦士に対する最上の礼儀とされているからである。
この凱旋の儀に参加するのは、武人としての名誉とされており、これに参加すると凱旋記章が配布された。
この凱旋記章を持つものは、軍内部で非常に重きを置かれた。
騎士の城をぬけ、王国北部を王都に向け行軍した。凱旋の知らせはもう届いており、あちこちで大歓迎を受けた。
親の敵を討ったビクトリア卿の話は、もう王国じゅうに広まっており、それを助けたエーデル卿や、シュバルツ卿の話も広まっており、国中が熱狂していた。
またこの戦では死傷者が、奇跡のように少ないというのも広まっていて、総指揮官のシュバルツ卿の人気は天を衝くようで、稀代の名将として称えられていた。
街道の人々は、花びらを撒いて、凱旋軍を称えた。
「シュバルツ様万歳」
「エーデル様万歳」
エーデルいないけどな。俺は全く称えられていないなあ。少しは活躍したんだけどなあ。まあ良いけど。
「いいですねえ、みんなに歓迎されたて帰ってくるのは」ハンスが嬉しそうに俺の顔をみた。
「俺もお前も称えられてないがな」
「まあ、そんなにすねないで、怪我無く帰っただけでも文句ないでしょう。それにハン様は、兵站で活躍したんですから、いいじゃないですか。兵站は一般人には分からないですからねえ」
「そうだな、兵站でのご褒美を期待するか」
「戦に勝って凱旋してるんでから、そこは素直に喜びましょう」
「そうだな」
ハンスに慰められるとは思わなかったよ。俺もまだまだだな。
軍は、シュバルツ様の居城で解散となり、主だったものと護衛が王都に向かった。
俺たちは、王都に入った。
王都中がお祭り騒ぎになっており、王都大通りを行軍する俺達には、花吹雪、紙吹雪がひっきりなしに舞っていた。
王都住民に手を振りながら、王城に入城した。
全員王の間に整列した。正面にはフリードリヒ王が王座に座し、その横にグロッサー男爵が立って居た。その両側には王都軍の将軍と将校が整列していた。
「シュバルツ、大功をたてたな。卿ならやってくれると思っていたぞ」
「もったいないお言葉です。寄子となったものたちが有能で、私はなしもしいないも同然です。かの者たちに是非お褒めの言葉を賜りたく存じます」
「卿は、相変わらず謙虚だな」
「寄子の功績はもちろん認める。しかし、失敗したら全責任を取るべき司令官が、成功したのに功績を認められないのはおかしいのではないか。功績は功績として認めるべきだと思うがどうか」
シュバルツは、はっとしたように王をみた。その顔は感動に満ちていた。
「全くその通りであります。私はある仕事をはたしたと認めます。そして私は貴方の臣下であることを誇りに思います」
「よろしい、シュバルツには恩賞追って沙汰する。期待するように」
「有難き幸せ」
「二番効はシルビア・エーデルだが、いまここにはいない。かの者は王国からの離脱を認める、ランド王国のために働くように」
「第三功は、オットー卿とする。ロンディウム攻城戦での敵城門奪取は見事だった。この戦いで、この戦が終結したことを考えても功績は大きい。恩賞は期待してよいぞ」
「は、ありがたく」
オットー・オイゲン卿は、最後の戦いでの見事な采配が評価されており、その美麗とともに、いまや貴族の婦女子に大人気となっていた。全くうらやましいよ。
「第四功は、ハン子爵とする。兵站を維持し食料、飼い葉、武具を維持したこと、賞賛に値する。飢えるものが一人もいなかったのは見事だった」
「さらに、部下であるハンスの破天荒な攻城兵器は素晴らしかった。これにより、死傷者が少なかったとこを考えると。功績は絶大である」
「ハンス殿、貴族になる気はないか。いかなる褒美も意のままだぞ」
「絶対に嫌です。貴族になりたくないから、ハン様の所に来たんです。いまのままがいいです。それで不満ならお金を下さい。研究の資金ならいくらでも欲しいので」
「ははは、噂通りのやつだな。いいだろう、報奨金をだす。それでよいか」
「それでよいです。有難うございます」
「それでは皆下がって良いぞ。ハン卿は今回の戦費のことで質問があるので残るように」
「ははー」俺を除く、全員が礼をし、退出した。
「ハン卿、この報告書は本当か」
「全くその通りです。食料はほぼ騎士の城の備蓄で賄えました。一部野菜や肉を購入しましたが、ささやかなものです。死者はほぼなく、怪我人も数十名程度でそれに対する補償金なども微々たるものです。総じて多めに計算したつもりです。その額で誤りはないと思います」
「あの戦をこの少額で乗り切ったと申すか」
「はい、その通りです」
「グロッサーどう思う」
「子細に調べましたが、問題は見つかりませんでした。この額でよろしいかと」
「この戦で、ランド王国は友好国となった。今後数十年は戦になることはないだろう。東方国境はこれで安泰となった。北部西方国境は、以前より問題ない。あとは南部西方国境だが、これは国境部分が荒れ地のため、あまり問題とならんだろう。つまりこの国の平安をこの程度の費用で得たことになる。私は良い部下を持った」
フリードリヒ王が感極まったように、天を仰いだ。その目は、涙で光っていた。
良いなあ、俺、やっぱりこの王様好きだわ。
「グロッサー、ランド王国への戦費請求はどのくらいにすればよいかな」
「このくらいなら、戦費要求は無しでもよろしいかと」
「それでは、芸がないと思います。こういうのはどうでしょうか」
俺は王にある提案をした。
「ははは、それは良い。それにしよう」王は大笑いして提案を採用してくれた。
「グロッサー、そのようにせよ」
「仰せのままに」
2週間後、ブルク王国からランド王国に請求書が届いた。そこにはこう書かれていた。
ランド王国金貨一枚を要求する、と。
読んでくださって大変ありごとうございました。
このお話はここで終わりとしますが、じつは最初の構想のまだ半分くらいなのです。
半分くらい書いたところで、投稿してみたいとの誘惑に負けて、投稿してしまいました。
続きは、続編ということで、書いてみたいと思います。全部書いてから投稿するつもりですので、半年くらいかかるかもしれません。
後半には、西の帝国という、悪者が出てくる予定です。
宜しくお願いします




