第32話;ランド王国侵攻11
翌日、予想に反して、ロンディウム軍が、城外に押し出してきた。
それは、持っている旗から見て王都軍5千、諸侯傭兵軍7千の、一万二千ほどと見受けられた。
「けっこう数を集めましたね、これは予想外です」
「なに、城に留まらず打って出てきたんだ。むしろ喜ばないとな。殻にこもっていれば少しは長生きできたものを。この野戦で叩きのめしてやる」
シュバルツは不敵に笑った。
「よし、作戦通り布陣する」
「あの作戦でよろしいんですか」
「ああ、こんな場合のために考えた作戦だ。使わない手はないだろう」
「旗をあげろ」
橙色のサラマンダー旗が上がった。
「珍しいな、サラマンダーだ」
あちこちからいぶかむ声があがったが、全軍命令通りに陣形を整えた。
サラマンダーは斜線陣であった。左翼にビクトリア軍五千を配置し、右翼にシュバルツ本軍一万を後方に配置した陣である。その中央にアンゲル侯爵率いる中央軍五千が間隙を埋めるように配置された。つまりビクトリア軍が先頭になり、他の軍勢は斜め後ろに整列するという斜線陣がしかれた。
両軍が徐々に前進し、ついに敵王都軍とビクトリア軍が激突した。
どちらも相手に遺恨を抱いているため、激戦となった。
「この裏切り者め」
「うるさい、悪王の手下のくせに」
双方、剣と盾の応酬が続いた。
この瞬間、シュバルツが右手を挙げた。
「右翼全軍に命じる」
「ゆっくりと後退せよ」
「えっ、後退かよ」
全員が驚愕した。
「何考えてるんだ」
「だが、命令には従わないとな」
右翼全軍がゆっくりと後退しだした。老練なアンゲル侯爵率いる中央軍は全く隙を見せずに、その間隙を埋めるように陣形を変化させていた。
それを見て諸侯軍が沸き返った。
「ブルク王国軍に戦意はないぞ、見ろ、後退してていくぞ」
「戦う気なんかないんだ。逃げているんだ」
「弱兵だ、今が攻め時だ」
「ここで勝てば恩賞は望むままだぞ」
「突撃だ」
諸侯軍は、シュバルツ軍に対し、突撃しだした。
王都軍から派遣された将が慌てだした。
「何かの策かもしれん、不用意な行動はとるな」
「は、臆病者は縮こまっていればいいんだ」
「そーだそーだ、俺たちにかまうな」
「邪魔すればきるぞ」
もともと地方諸侯と傭兵の集まりで、統制を欠いている軍だった。王都軍から派遣された将も、絶対的な命令権はないため、諸侯軍を抑える事はできなかった。
「まて、まて、まて」王都軍の将の命令が空しく響き渡った。
諸侯軍は全軍で突撃していった。
「さすがシュバルツさまだ」
エーデルはそれを見て、不敵に笑った。
「スキマが開いた」
敵の諸侯軍が突撃したため、ビクトリア軍と戦っている王都軍との間に間隙が生じた。それをエーデルは見逃さなかった。
「ビクトリア、行くぞ」
「はい」
二人は馬に鞭を当て、駆け出していった。銀色の兜をかぶり、銀色の鎧を着た二騎が戦場を疾走した。
それはまるで戦場を疾駆する二本の白銀の矢のようだった。
「俺たちも遅れんじゃねーぞ」
それを見たシュタインたち各隊から選抜された500騎の騎兵が後に続いた。
ヤンが速度を速め、騎兵の弱点である左側を埋めるように、ビクトリアの左方に位置した。それを見てビクトリアが感謝するように軽く会釈した。
「ちぇ、ヤンめいいとこ取りやがって、これじゃあまるでヤンが近衛騎兵隊長じゃないか」
シュタインが毒づいた。
「しかたねいな」
シュタインはエーデルの右後方についた。
「エーデル様よう、後ろは任してくれ」
「フン」
鼻で笑われた。
エーデル率いる騎馬隊は、まっすぐに開いた間隙に向かっていった。
「まずい、騎馬隊に裏に回られるぞ。王都軍が危ない、援軍を出さねば」
諸侯軍の将が焦った。
「それどころではないです、前を見てください」幕僚の一人が絶叫した。
「なに」
そこにはシュバルツ軍が全軍で突撃してくるのが見えた。
そして、その軍勢は真っ赤な旗で埋め尽くされていた。




