第31話;ランド王国侵攻10
ヨーク城を出発し、3日行程でロンディウムに到着した。
途中、ほとんど妨害がなく、王党派の勢力がかなり落ちているのが感じられた。
「こうまで抵抗がないと、手ごたえがありませんね」
「そういうな、いわば侵略軍に近い俺たちが、むしろ歓迎されているという事は、元々の政治がひどかったんだろう。同情しなくちゃ」
「うちの王様のくらいの器量はなかったんですかねえ」
「おい、フリードリヒ王と比べるなよ。うちの弟は、王の特別減税で救われたんだからな。比較にならん」
「そんな話よく聞きますね。いい王様なんだな」
「おうよ、俺たちの家族が気楽に暮らせているのもあの王様のおかげなんだからな。この戦争も、ビクトリア様を助け、東の脅威をなくそうという考えだそうだ。俺たちも頑張ろうぜ」
「それは、頑張らなければな」
3日後の夕刻、ロンディウム郊外の平原に到達した。ロンディウム城内は、人がいないかのように妙に静まり返っていた。
その日は、俺たちはその平原で野営した。
エーデルは考え込んでいた。この半年でビクトリアを鍛え上げてはいた。特に槍と馬術は鍛えていた。一応の水準にはなっているとは思う。
しかしビクトリアが父の仇を打つため、ジョン王を倒すにはまだ足りないものがあると思っていた。
一つには実戦経験だが、この戦いでは、ほとんど戦がなかったのでこれは仕方ないと考えた、ぶっつけ本番になるだろう。
もう一つは、実際に人を殺したことがないという事だ。これは重要だ。いざ殺すとなったときに、躊躇ったりしては危険だった。
「仕方がない、時間もないことだし、ここでやるしかないか」
「ビクトリア、本当に父の仇を取りたいか」
「はい。そのために私はここに来たのです。絶対に仇はとります」
ビクトリアは思いつめたような表情でいった。
「本当だな」
「はい」
「仇を取るうえで、あなたにかけているものが二つある。一つは実戦経験だが、ここまで戦がほぼなかったので、これは仕方がない。ぶっつけ本番で行く」
「しかし、もうひとつは、今ここでできる。大変辛くて、酷いことだが、やれるか」
「それが必要なら必ず」
「よし、連れてこい」エーデルはそばの兵に命じた。
兵は一人の男を連れてきた。その男はみすぼらしい服をきて、口にはさるぐつわがされていた、さらにうしろ手に枷がはめられていた。
「この男は一週間前に王都自警団に捕まえられた盗賊団の頭だ」
「この盗賊団は、この近辺で暴虐の限りをつくしている。盗み、殺人、婦女暴行など悪事にはことかかない」
「自警団により全て調べはついており、こいつが盗賊団の首領であることは確定している。調べがついたので、他の盗賊は昨日までに全員処刑されている。あとはこいつのみだ」
「ビクトリア、あなたには人を殺した経験がない。そこで、こいつを殺してもらいたい」
「必要なこととはこれですか」ビクトリアが幾分怯んで答えた。
「そうだ。これは絶対に必要なことだ。これから敵討ちという、人殺しをするんだろう、ならそれを経験しておかなければ」
ビクトリアは唾をのんだ。
「やります。いえ、やらせてください」
男は引き出され、跪かされた。
ビクトリアに斧がわたされた。
「これで首をきれ」
ビクトリアは、渡された斧を見て、しばし躊躇ったが、決意を込めて斧を受けとった。
ビクトリアは思った。これは必要なことだ、それなら絶対に目をつぶらず一部始終を見て、記憶しようと。
その罪人はうめいて、逃げようとして暴れたが、屈強な騎士が両側からが抑えているため動くことはできなかった。
そして、その目からは涙が流れているのがみえた。
ビクトリアはその涙を見て逆に心が奮い立たされた。あなたはもっとたくさんの人に涙を流させたのですよね。ならば、もうこれ以上涙は流させないようにします。
そして、斧を思い切り振りかぶって、罪人の首にたたきつけた。
血しぶきが上がり、首は断ち切れ、前に転がった。
罪人が一人その罪を償った。
首を落としたあと、ビクトリアは斧をとりおとし、うずくまったのちに吐きだした。
「今の感触と気持ちを忘れるな、これが人を殺すという事なんだ」
エーデルは、戦いで最初に人を殺したことを思い出していた。あの時は私も吐いたな。しかし、これで一つはクリアした。
これから敵討ちという人殺しをするんだ、それなら人を殺す経験をしていないといけないだろう、仕方ないと思うが。なんでこんな経験しなきゃいけないんだ。
くそったれめ。
俺は食料について考えをまとめた。現在七日分の食料がある。そして明日には食糧輸送隊の第4隊が到着する見込みだ。
17日分の食料があることになる。第5隊も騎士の城を出発する頃だろう。現在まだ食料には余裕がある。
さらにここは王都なので、食料もある程度はあるだろう。いま、野菜、パン、新鮮な肉を買い集めさせている。さらに数日分は増えるはずだ。
とりあえず、食料についてはなんとかなるだろう。




