第26話:ランド王国侵攻5
烽火が上がった。
「ついにきたな」
俺はハンスをみた。
「はい、来ました。誰も川に入らないように伝えてください。非常に非常に危険です」
「伝令を出せ、山津波が来る。川から離れろと」
「俺はシュバルツ様の所に行く。リュウあとは頼んだぞ」
「了解です。あらかじめ決められた作戦通りやります」
「頼む」
上流でせき止められていたので、川の水量は少なくなっていて、歩いて渡れるくらいになっていた。
「川から離れろ、山津波が来るぞ」
「即刻川から離れろ、死ぬぞ」
「離れろ、離れろ」
伝令が叫びながら走り回っていた。
案の定、命令を無視して水量の減った川で遊んでいるものが結構いたが、その言葉を聞いて皆慌てて川から逃げだした。
ドドドドドドと、上流から、不気味に重い音が響きだした。
ついに山津波が押し寄せてきた。それはまさに巨大な真っ黒の水の壁だった。
周囲にある、木も、土も、建造物までも、あらゆるものを破壊し、それを全て巻き込みながらドウドウと轟音をあげて下流に押し出してきていた。全てのものを飲み込んだ途方もなく巨大で真っ黒な水の塊が、轟音とともに押し寄せてきたのだ。
それはもはや人間にはどうしようもないいわば天災に等しかった。
「あの黒い塊はなんだ」
「山津波か」
「あんな恐ろしいものは見たことがないぞ」
「悪魔の仕業か」
「もっとさきまで逃げろ、巻き込まれるぞ」
それをみた味方の兵士たちが蒼白となって後ずさった。
そして、ついに山津波が、プリマス城の西の城壁に激突した。
ドウドウと流れる山津波が、城壁にぶつかりドーンという轟音を立ててしぶいた。
水がガリガリと城壁を削った。
しかし、水だけなら、城壁はこの衝撃を耐えたかもしれなかった。だがこの山津波には数百本の丸太と、岩と、雑多な残骸が含まれていたのだ。
山津波と共に丸太がガツンガツンと城壁に連続してぶつかった。
城壁は次第にゆがみだし、何百本目かの丸太が当たったとき、ついに崩れた。
「うおー」
「やったぞー」
それを見た味方から大歓声が挙がった。両手をあげて走り回っているものも、周りのものと抱き合って喜ぶ者もいた。
「なんだこの音は」
城内では軍議が催されていたところだった。この城内にもビクトリアに降伏しようという将兵も一定数いるため、軍議は紛糾していた。しかし城将がジョン王の親戚だったため、絶対に降伏には肯んじなかった。
ドドドドという重い音が響いてきた。そしてそれは次第に大きくなってきていた。
「どうしたというのだ」
「見張りは何をしている」
そこに伝令が駆け込んできた。
「山津波です、津波が押し寄せてきています。まもなく西の城壁に激突します」
「何だと」そこにいた全員が驚愕した。
そこに、重い何かがぶつかったようなドーンという音が響いた。同時に大きな衝撃がおこり城が揺れた。
「どうしたんだ」
「山津波が城壁にぶつかったと思われます」
それからガツンガツンという音が響き渡り、城内は衝撃で揺れ続けた。
皆は立っていられず、周囲の物につかまって耐えていた。
「城壁はもつのか」
「わかりません」
皆は早くこの轟音と衝撃がやむことを祈っていたが、ドカーンという衝撃音が響き、ごうごうという音が近くまで迫ってくるのが感じられた。
「まさか」
伝令が走りこんだ。
「西の城門が崩れました。津波が城内まで入ってきています。城の西側は大混乱に陥っています。ご指示を願います」
城の首脳部はまさか城壁が崩れるとは思っていなかったため、余りのことに声を失った。
山津波により、西の城壁は、広範囲に崩れ落ちた。




