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第20話:一本の麦


デイジーの話は終わらなかった。

「実は私は、子供のころはとても変わった子とだったらしいのです。そのため友達もなく、寂しい子供時代を送っていました。その私に優しくしてくれたのは従妹のネリーだけでした。でもネリーがすんでいるところは寒冷で、冷害が起こりやすいところで、冷害が起こるたびにネリーが悲しんでいるのを知っていました。優しいネリーのために、何とかしたいというのがあたしが研究をはじめた動機でした」

デイジーが涙ぐみながら言った。


「その話は良く分かった。辛かったと思うが、話は終わりではないのだろう」


「はい、畑の土をよくするのに、森の土を運んで畑に加えるとよいと聞きました。そして森の土がなんで良いのかを考えました。森に多いものは何かと考えたところ、葉っぱじゃないのかと考えました」

「そこで、葉っぱを大量に集め土と混ぜ、少量の水をかけ、腐敗させたらどうなるのだろうという実験もしています。肥料になるといいと思っています」

「それから動物の糞からも肥料ができるかもと思っていますが、病気を広げる可能性があると思い、現在検討中です」

デイジーの話はまだ止まらなかった。俺はただ呆然と話を聞いていた。


「それから、一昨年北部で大冷害がありました。ネリーのところが大変な被害にあったのです。しかし王様からの援助で飢えるまではいかなかったそうです。大変ありがたいことと、感謝しています」

デイジーは本当に感謝しているようで、王都の方にむけて頭を下げた。

「あたしのお父さんもネリーの所に食料を援助しました」


「そして、そのお礼として、一本の麦の穂が送られてきたんです。食料援助に対してお礼するものが何もなくてすまない。こんなものしか送れるものがなく、大変申し訳ないと、一本だけ実った麦を送ると、一緒に届いた手紙に書いてありました」

「お父さんは、そんなことしなくてもいいのにといって、その麦を捨てようとしましたが、あたしがそれをもらい受けました」


デイジーの目が光った。

「考えてもみてください。あの冷害で、全ての麦が枯れてしまい何もない畑に一本の麦だけがすっくと立っていたのですよ。しかも細々と弱く生きていたわけではなく、立派に丸々とした実がみのっていました。これは絶対におかしいです。あれほどの冷害で、他が全滅したのに麦が一本だけ残るのはおかしいです」

「何かの原因でこの一本だけ特別に寒さに強い性質を持つようになったのではないでしょうか。そこで、ハンス様にこの麦を増やしてみたらどうだろうと言ってみました」


「するとハンス様は、あたしのことを物凄く褒めてくださいました。そこに気付くとは、お前はやっぱり天才だと、何度も何度も頭を撫でてくださいました。涙が出るくらいうれしかったです」


「そこで実験農場で、今この麦を育てています。そしてネリーの所に手紙をだしました、同じような麦がないか、あれば送るようにと」


ちょっとまて、いつの間にか実験農場なんてものができているんだ。さらにそれが、今現在稼働してるんだな。そういや権限を与えたんだったな、仕方ないか。でもなんか凄いことになってるんだが。


「他にも同じような麦があれば、それを掛け合わせ、さらに寒さに強い麦を作れるかもしれません。そうすればもうネリーが悲しむことも無くなると思うんです」


おいおいおいおい、とんでもないことを言い出したぞ。もしこれが実現すれば、ネリーどころが王国が救われるぞ。


俺はハンスに向かって叫んだ。

「ハンス、こいつを絶対に手放すな。掛け値なしの天才だ。デイジーのためなら、俺は何でもするぞ。金でも物でも人でもいくらでも出すぞ。こいつはこの国の宝になる」


「ハン様ならそういうと思っていましたよ。私が絶対に保護します」

ハンスが最上の笑みを浮かべて俺を見た。


数年後、デイジーにより寒さに非常に強い麦が作り出された。デイジーはハンス1号と命名したかったようだが、デイジー以外の全員が反対し本人の意図に反しデイジー1号と命名された。

デイジー1号により、王国北部でも冷害にあうことは非常に稀になり、ネリーが悲しむことは以後無くなった。





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