蝕まれる平和
時を同じく、光王冠国の魔族の王家が住まう光城で空を眺めている一つの影が佇む。
肩までの白金色の髪を紐で結んで、装飾品に身を包まれている男性が溜め息をつく。
彼は現国王ー…華架王蓮
魔族の中で最も強い力を持つ者で、壱の父である。
『お疲れなのですね。此方のお飲み物でも如何でしょう?』
そう言ってひとりの臣下が蓮へと茶器を差し出す。
『お前は……初めて見る顔だな、すまない。頂くとしよう。』
何も疑わずに、茶器を受け取り口に含む。
冷たい液体はゆっくりと喉を通る。少しの間の内、蓮は目を見開いた。
『……っ…』
『王様はお疲れのようですね。ごゆるりとお休み下さいませ?』
その場にいた臣下達は蓮をただ見つめていた。
虚ろな瞳には、何も映ってはいなかった。
『おのれ、…貴様は……』
『申し訳ありませんが、臣下は既に我が手元に。大丈夫ですよ、貴男様も直に楽にしてさしあげます。』
蓮に向かって手を翳す。
『貴様は……誰……だ、…』
そのまま床へと倒れる国王。
『私の名ですか……?我が名はー……』
相手が名乗るも、蓮はそこで意識を手離す。
『んー……』
臣下の声で目を覚ましたのは、翌日の早朝のこと。
『王様、大事はありませんでしょうか?』
心配そうな臣下に微笑む蓮。
『悪かった、大丈夫だ。』
『貴男……心配しましたわ。』
涙を流し、膝をついたのはこの国の王の妃ー…華架王瑠璃
腰まである白金色のウェーブした髪が揺れる。
『この所、ずっと御無理をなさっていましたもの。もう少し休まれた方が……』
瑠璃が心配そうに蓮を見る。
『いや、私にはする事がある。』
そう言って立ち上がった蓮は、瑠璃に微笑む。
その笑みは決して優しい瞳ではなかったー…
『れ、……蓮………?』
数刻の時が刻まれた頃、十字架学園内では緊迫に包まれた空気が漂っていた。
『これはー……どういう事だ?』
学園内には水晶を使った鏡があり、危険を察知すると映像が映し出される仕組みになっている。
『あれは、魔族軍よね!?』
『どうして人族の民を……?』
『神族が応戦しているが、劣勢だな。』
生徒達がざわついた。
中には混乱に陥る生徒も。
教員が鎮めようとするも、収まらず。
『大丈夫だ。』
見かねた壱は一声をあげる。
一瞬で、静まり返った学園内は不気味な程に静寂に包まれた。
『最早此処も決して安全の保証が出来かねます。どうするおつもりですか?』
そう言ったのはこの十字架学園の理事長ー…久遠季代
海紗の母であり、久遠家の現当主でもある。
『何か方法でもあるのならば、私も手をお貸しいたしましょう。』
季代の後に発言した女性は副理事長であるー…白酉緋路
庵の母であり、白酉家の現当主。
『これはこれは……助かる。お二方の力があればこの学園は大丈夫だろう。』
『壱、行くのですね……』
『行かなくてはならない。理事長、後は頼みます。この学園を……』
『崇、貴男も行くのね?』
『副理事長、俺は壱を守らなくてはならない。だから……』
『えぇ、理解ています。どうか気をつけて。』
そう言って二人は十字架学園を後にする。




