愉快な晩餐
豪華な食卓を囲み会話が弾む面々。
『魔族ってもう少し、嫌みな性分だと思っていたよ。』
海紗がお肉を口に運びながら、言う。
『いや、充分に嫌みな性分だろ。特に……』
駿はまたもや、余計な一言を言わんとする。
『………ん?』
ギロリと赤色の瞳を向けたのは崇。
駿は不覚にも怯んでしまうのだが、それだけに止まらなかった。
崇の瞳が仄かに光ると周囲にあったナイフやフォークが宙に舞う。
『竜臣、俺を脅すつもりか!?』
『いや、そんなつもりはないが?然し貴様は礼儀を弁える事は出来ないのか。俺に様付けをしろ。敬意を払え。』
『何様のつもりだ!偉そうに。』
『俺様だ。』
『ふざけるな。』
周囲に刃物が浮いているのを忘れて席を立つ。
『月城君、危ないですよ…』
危なげな駿を放っておけなかった水鵺も席を立つ。
軽く灸を据えるつもりで、ナイフを動かす崇。
『崇、貴男は……魔力をそのような事に使ってはなりませんよ。』
水鵺の頬の近くでナイフの刃の部分がギラリと光る。
流石に人である駿は息を呑む。
頬の近くで浮いているナイフを見つめ、刃先に人差し指を当てるとナイフは砂と化し床に零れ落ちた。
銀色の砂と化したナイフが水鵺の足元で静かに光っていた。
『危ないです、と申したはずですが?』
一瞬の内に崇の真後ろまで移動していた。
『水鵺……その男を庇うのか。軽い冗談のつもりだ。もう止めるさ。』
そう言うと指を鳴らしてナイフやフォークを元の位置へと戻す。
冷やりとした空気から、穏やかな空間へと戻る食堂ホール。
『駿は大人気なさすぎだよ。馬鹿じゃないの?』
『ごめん、海紗……』
しゅんとする彼を余所に海紗は再びお肉を口へと運ぶ。
『このフカヒレは最高ですわね。』
場の雰囲気を少しでも和ませたい庵は食卓に並ぶ品々を誉める。
『あ、これも美味しい!あれも!』
口一杯に頬張る。
『ゆっくり食べたらどうです?海紗は本当に食いしん坊ですね。』
『嶺君だっていつもよりも、食欲が増しているようですが?』
『庵の言う通りですね、美味たるものです。流石に食欲も増しますよ。』
若干二名を除けば、和やかな食卓を囲む庵達。
庵はふとした疑問を壱に投げかけた。
『あの……私達に何かご用でもあったのですか?私達は人族です。竜臣様から……』
『あぁ、そうだね。崇が喧嘩を売るような真似をして済まなかった。』
『それは……』
『つい、ね。楽しそうな雰囲気に誘われたでは駄目かな?』
腑に落ちないながらも、庵は納得する姿勢のみ見せる。敵対したい訳ではない。
納得するのが、無難と考えて、これ以上の詮索をせずに下がる。
夜空に月も顔を出し、すっかり夜も更けた頃合いになり晩餐会も終わりを告げようとしていた。
『もう夜も更けた、晩餐を御開きにしよう。』
壱の一言で、晩餐会は終わりを告げた。
『お気をつけて。』
ミカエル寮の門前まで見送りに来たのは、水鵺。
『玖皇殿、有り難う。美味しかったよ!』
海紗は満面の笑みを向ける。
『久遠さん、ちょっと上を向いて。』
そう言うと胸元からハンカチを出して、海紗の口角の辺りを軽く拭う。
『えっ…‥』
『汚れていましたよ?はい、これで良いでしょう?』
『あの、待って!それ……』
それ、というのはハンカチを指す。
『洗って返すから。』
ぷいっと横を向いてハンカチを掴む。
『帰るぞ!!』
その様子に腹を立てた駿は水鵺を睨んでから、海紗の手を取り歩き出した。
『あ、玖皇様…失礼しますね。』
『それでは。』
庵と嶺も礼を言って、ふたりの後を追う。
そんな様子を黙って見つめる水鵺。
『楽しかったのか?』
『君は不機嫌でしたね。壱に叱られますよ?』
『ふん、余計な世話だな。神族の野郎に言われる筋合いは無い。』
『そうですか…』
崇の言葉に苦笑する。
『もう戻るぞ、何時までも門前に居るつもりか。』
『分かっている。』
二人の影は寮内へと消えて行った。




