晩餐の開始
夕暮れ時の校舎に四つの影。
『まさかあそこまで食い意地はってるとは思わなかったぞ、海紗。』
『だーかーら、謝ったじゃんか!駿の分からず屋。』
『まぁまぁ、落ち着いて。』
庵が二人を宥める。
『しかし、本当に行くのかい?』
『嶺君が心配する気持ちは分かりますわ。ですが、了承してしまいましたし。』
『それに、貰えるご馳走は貰うべきだよね!楽しみ~』
『やっぱり海紗!お前は口だけだろ。』
文句を言い合いながら、壱達が待つSクラスの寮の門へと向かう一行。
この学園はクラス毎にそれぞれの寮がある。
Aクラスがラファエル寮、Bクラスはガブリエル寮、Cクラスはウリエル寮、Sクラスはミカエル寮となっている。
『ミカエル寮って魔族の王子様が住むだけあって、豪華だよね。凄いや。』
海紗が見上げながら、ぼんやりと呟いた。
『噴水はどの寮にもありますが、確かに細工の施し方は最高ですわね。私達のラファエル寮よりも上ですねぇ。綺麗だわ。』
『庵が言う通りですね。この細工の噴水は美しい。宝石が散りばめられているようですね。天使の羽根も細かい部分まで、掘ってあるようですよ。』
三人が寮の中庭を見渡しながら歩いている横で、駿だけが忌々しげな表情をしていた。
『けっ、嫌みな寮だな。』
『なら来なくて結構だったのだがな?』
『崇、君はまたそのような事を……』
『水鵺は黙っていろ。文句は聞き飽きた。うんざりだ。』
駿の発言に苛立ちを隠せない、いやーー…隠さない崇。
『えっと、竜臣殿。ごめんなさい。』
謝ったのは、海紗。
『いや、此方も挑発に乗ったから別に良い。』
罰の悪そうな崇。
もっと罰の悪そうな駿は何も言わない。
『さぁ、中へ案内しましょう。どうぞ……』
水鵺の案内で、寮内へと入る一行。
『お腹すいたなぁ。』
『ふ、……久遠さんは素直な方ですね。』
クスリと笑う水鵺。
『あ、それは……』
『素直なのは、良い事です。私は愛らしいと言っているのですよ?』
赤紫色の瞳が海紗を捉える。
『うん…』
珍しく海紗は照れていたようで、耳まで紅色になっていた。
そんな海紗を見ていた駿の表情は余計に引きつる。
話している内に食堂ホールへ着いた。
『此方でお待ち下さいね。』
そう言って水鵺と崇は席を外した。
『玖皇殿は紳士だよね。』
『確かにそうですわね。』
『駿も見習った方が良いよ?でも竜臣殿も男気あって、頼りになりそうな魔族人だね。』
『華架王様も王子様なだけあって、素敵ですわね。周囲の女生徒が騒ぐはずです。』
ふたりの会話に苛々が頂点になる駿。
嶺は黙って耳を傾けているのみ。
『あのなぁ……ふたりは騙さ‥…』
その時、扉が開く音がした。
『お待たせして、申し訳ない。さぁ、晩餐にしようではないか。』
壱が指をパチンと鳴らすとテーブルの上には豪華な品々が次々と顔を出す。
その様子に四人は驚いた。特に海紗は目を輝かして喜ぶ。
『わぁ、凄い。食べても良いんですか!?』
そんな海紗を見て微笑む壱。
『構わない。好きなだけ食してゆくと良い。』
『君等が飲めるものも用意したから、どうぞ。人族は二十歳からでないとお酒は飲めないのだろう?』
崇は四人に席に着くように促す。
今、言った通りで人族は二十歳で成人を迎える。
魔族・神族は十歳で成人を迎えるのだが、人間の歳で言うと魔族は十歳で三十歳となり、神族は二十歳となる。
簡単に言うと、年齢から二から三倍をかける形となるのである。
『いただきま~す!』
『海紗ったら、声に嬉しさ全開なのが出ています。』
『海紗らしくて、良いんじゃないですか?庵も嬉しそうな表情していますよ。』
『ふん、折角の御厚意だから食べてやるさ。』
相も変わらず駿は素直になれない。
四人はそれぞれ席に着き、食べ始める。
壱がワイングラスの縁にスプーンを軽く当てると音が鳴り響いた。
『それではー…』
晩餐の開始となる。




