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誓約

『私は蓮王の(しん)です。私の魂は蓮王の物。穢れなき魂を献上するは忠誠を誓いし,主にのみでございます……』


腕に携えていた大釜を躊躇いなく振りかざした。

『崇,死になさい。』

その刃先は彼の腕をかすった。危うく攻撃を交わすが皮膚からは,じわりじわりと赤色の血液が染み(いづる)。尚も攻撃の手を止めないまま再度,斬りかかる彼女。


『水鵺さん,目を醒まして‼』

真夜がその一振りの攻撃を扇で受け止める。その反動で辺りには紅い薔薇の花弁が舞った。

『私は貴方(まや)とは違い,蓮王(あるじ)を裏切るような真似は致しません。貴方こそ目を醒ますべきです。』

『それは……私に欲があったからです。過ちに気付いたの。愛しているが故の過ちに……。そしてそれはしてはならない事でした。ごめんなさい,水鵺さん。』

『愛……して…る…………?』

真夜の言葉に一瞬の隙が出来た水鵺。その好機を逃さなかった崇が身体を起こして,自身の大釜を携え背後に回り込んだ。

真夜が援護するように扇で水鵺の大釜をはたき落とすと,金属が床に落ちる音が豪快に響く。


『これで(みや)は動けないね。この俺が(いん)による術を発動させておいたのだから。』

壱に云われて水鵺は足元を見やると,封印の術が施された色に輝く魔方陣があった。

『崇。此で私の動きを止めたと……』

『いや,そんな緩い止め方ではないさ。下手に動かない方が良い。心臓諸とも(えぐ)り出す。』

そう云って大釜の刃先をピタリと胸元へつけると背後から抱き締める。

『お前の身体は冷たいのだな。』

『死人ですもの。』

『護れずにすまなかった。初めてあった時から女性だと知っていた。隠しているようだったからずっと黙って,知らない振りをしていたんだ。許嫁が壱だったが,それでも愛していたよ。ずっと冷たい対応(たいど)ですまなかった……お前を死なせてしまってすまない。』

すると顔だけを崇の方に向けた水鵺が優しく微笑む。

『存じていました。初めは神族だから嫌われていると思っておりました。壱を友人として慕ってはいましたが,貴方に心を奪われておりましたわ。蓮王は身を隠す為に男装をするように命を下して,その時に壱にお会いしましたね。』

『あぁ。君は出会った時から凛々しかったよ。内密な婚約者だったから公にはしなかったが,蓮王と母上は君を認めていた。崇を好いていたが,真夜との件や国の為に自由にしてやれなかった。すまなかった。』


すると彼女は刃先を掴み,自らの胸に力を込めて刺した。刃をつたり紅き滴が崇の腕を侵食した。

『水鵺……‼』

『此で良いのです。崇,私の意識体が表に出た今しかないのです。もう貴方の足枷は無くなります。崇,貴方に聖霊の恩寵(おんちょう)が在りますように……』

目を綴じると身体が仄かに光る。

『俺はお前を二度も死に追いやってしまうのだな。』

自嘲気味に嗤う彼の頬に手を添える彼女。


『私の御霊は貴方の心の中で在り続けます。ですから最期の儀式を……』

『望みを叶えよう。』


血塗れの彼女は力なくも,崇の足元へ膝まずいた。


『我,神ノ一族成。最期ノ時迄,誓約セシ我ガ主ノ為ニ此ノ身ヲ捧ゲヌ。如何成ル時モ命ニ背カズ忠誠ヲ誓ウ……。』


白銀の長い髪は(なび)き,その背からは八枚の金色(こんじき)の羽根が舞った。顔には十字架の紋章が施された蒼い鎧兜を付け,身体は同色の蒼い鎧に身を包まれていた。


崇は承諾の意を含め頷き,膝まずく彼女の唇に口付けをした。


彼女の最期の願いは守護者として彼の傍に居る事であった。

その願いを受け入れる彼の目からは一筋の涙が溢れた。

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